筆者の計算では、過去最大の企業収益を稼ぎ、法人税減税の恩恵で内部留保を積み上げている大企業に、これまで極めて低かった税負担を、無理のない範囲で「まともに」納めてもらうことで十分に賄うことができる。これを論証したい。

「高すぎる」法人税率が長らく叫ばれ、税率引き下げは至極当たり前のこととして進行しているようだ。

現行の法定税率は32.11%。16年に31.33%以下とすることは、すでに今年度の税制改正で決定済みだが、「早期に20%台に下げる道筋をつけたい」とする安倍首相の強い意向を受け、16年度は29.97%に下げ、17年度は同率据え置き、18年度は29.74%まで引き下げる案を決定している。

企業が内部留保を活用し、設備投資や賃上げを進めるよう求め、その代わりに「企業の立地競争力を強化する」ために、法人税率の引き下げを含む税制改革や規制緩和の施行といった環境整備に取り組む姿勢で応じてきた。経済界が賃上げや設備投資に前向きの姿勢を示せば、法人税の法定税率引き下げを前倒しするというわけだ。

政府はこれまでも、累次にわたる大幅な法人税率の引き下げなど経済界を後押しする政策を次々と打ち出してきた。実際、企業収益は過去最高となり、内部留保は350兆円超に達している。しかし、GDPの伸びに不可欠な企業の設備投資は反応が鈍く、賃上げも消極的なままだ。

グローバル化の進んだ世界経済下においては、無国籍化した巨大企業の稼ぎは国の経済にも財政にも寄与していない。法人税減税を行っても、企業の内部留保と配当金を増やすだけで、景気への効果がほとんどないことは、過去の経緯を見れば一目瞭然。なのに成長戦略が手詰まり状態で、何かしなければ、との動機から今回の引き下げを画策したとすれば、馬鹿げているとしかいえない。