コーポレートメッセージは「361°」

青少年時代の西川はビジネスとは無縁な、野球好きだった。

地元で野球の名門である中京大学附属中京高校に入学し、プロ野球選手を目指したが、入学直後に腰を故障し、大切な1年間を棒に振ってしまった。復帰後はレギュラーとして活躍したものの、思うように身体が動かなかった。社会人野球に進むことも考えたが、自信が持てず、大学に進学して体育学部に学んだ。

だが、大学生活は退屈で、父の会社を継ごうと3カ月で中退した。父は、段ボールや婚礼用化粧箱などの紙器製造会社で、数人の従業員を使っていた。

西川世一・ESSPRIDE代表取締役グループCEO

経理学校とデザイン専門学校で学び、埼玉県の印刷会社で1年半ほど修業したあと、2000年に父の会社に就職した。だが、すぐに零細企業の厳しさに直面する。古い取引先から大幅なコストダウンを要求された。応じなければ取り引きは停止、応じても利益は出ない。

悩む西川に父は無理に継がなくてもいいと言ってくれたが、大学を中退した以上、がんばる道は他になかった。

従来の仕事に頼っていては先細りになると、新規事業を模索し始めた。あるとき、百貨店の外商部から競艇場の来場者に配るノベルティを依頼された。選手のフィギュアとコンペイトウをセットにした商品で、数量は10万セット。コンペイトウの製造会社を探して、自らパッケージをデザインし、何とか納品した。

この仕事がヒントとなり、企業や団体向けのオリジナル菓子事業を2002年から始めた。周囲は止めたが、西川は「いままでこうしたサービスがなかっただけで、利用シーンを提案すればニーズは掘り起こせる」と確信していた。だが、愛知県では商機が少ない。西川は父の反対を押し切って東京に出た。

小さなアパートを借りて、企業への売り込みをしながら、委託で菓子を作ってくれる製造会社を探したが、小ロットではどこも対応してくれない。何軒も当たったが、みな門前払い。そうしたなかで、ある菓子問屋の協力を得ることができた。

最初の受注は、大手流通グループの催事の販促品。広告代理店が評価してくれて、少しずつ注文が入るようになった。

2005年に父の会社から独立して、エスプライドを設立。経営が軌道に乗りかけた2007年には、ある大手小売業のキャンペーン用菓子でパッケージのミスが起こった。仲介していた会社は激怒し、18億円も賠償を求められたが、払えるわけがなく、西川は必死に謝罪して、原因究明と事故防止に努めた。

その3カ月間、業務が止まり、業績が悪化、倒産を心配した社員が次々と辞めていった。最終的には賠償は少額ですみ、以降、西川は徹底した品質管理の強化と、企業理念の構築を行った。残った仲間と3カ月かけて、理念、行動指針、CI、キャラクター作りなどを行い、コーポレートメッセージを「361°」とした。これには360°の視野を持って、あらゆるチャレンジをすることで、「+1°」の感動を次々と生み出したいという思いが込められている。

がんばるのは当たり前。あと、「+1°」が人を動かす。西川とエスプライドの次の「+1°」が楽しみだ。

(文中敬称略)

株式会社ESSPRIDE
●代表者:西川世一
●創業:2005年
●業種:商品・店舗のプロデュースなど総合クリエイティブ事業、企業のブランド構築、コンサルタント業、ライセンス事業など
●従業員:110名(グループ)
●年商:非公開
●本社:東京都渋谷区
●ホームページ:http://www.esspride.com
(ESSPRIDE=写真提供)
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