事業は順調に伸びていた。が、そこに孫が思いもよらぬ“価格破壊”で奇襲をかける。従来の月額料金は5000~6000円。それを半分以上も下回る2280円という価格設定で攻勢を開始したのだ。
「私どもの戦略を見切ったうえで手を打ってきたわけです。恐ろしい競争相手だと思いました。うちのビジネスプランが全部崩壊するわけですから。周りの社員も真っ青な顔をして『うちはもう終わりだ』と、絶望感に包まれました」
だが、千本は一晩考え抜いて「ハッ」と悟った。翌朝、全社員を集めてこう宣言する。
「天は素晴らしい機会をあたえてくれた。ヤフーにできることが、うちにできないはずはない。新たなプランをゼロからつくり直そう――」
その結果、どうなったか。ソフトバンクの参入によりブロードバンド市場はさらに拡大。コストダウンを図ったイー・アクセスの新プランは収益改善を実現する。そして04年には当時の最短記録となる創業5年で東証一部上場を果たす。千本はいう。
「孫さんは最大の好敵手であるとともに、最大の恩人でもあったのです」
(敬称略)
奈良県出身。京都大学工学部電子工学科卒業。日本電信電話公社(現NTT)入社。84年、稲盛和夫とともに第二電電(現KDDI)を共同創業。その後は慶應義塾大学大学院教授などを経て、99年にイー・アクセス、2005年イー・モバイルを創業。13年、株式交換方式でイー・アクセスをソフトバンクに売却、今年3月まで同社取締役名誉会長を務める。現在、日本M&Aセンター特別顧問。著書に『挑戦する経営』がある。