納税者の「怒り」が大企業を追い詰める
日本では2009年に東京国税局が千葉県にあるアマゾンの配送センターを「支店」とみなして法人税140億円の追徴課税処分を決めたことがある。しかしアマゾンは反論し、支払いに応じなかった。外国企業に法人税を課すためには、二国間の租税条約に基づき、日本国内に現地法人や支店などの「恒久的施設」があることが条件になっている。日本と米国の相互協議の結果、「配送センターは倉庫で、『恒久的施設』ではない」というアマゾンの主張が認められ、追徴課税処分は取り消された。
国税庁OBで、国際課税に詳しい早稲田大学の青山慶二教授は「G20での合意で、こうした判断も見直されるでしょう」と話す。
「これまでOECDのモデル条約では一般に倉庫は『恒久的施設』とは認められておらず、アマゾンの事案も規定の不備ではないかと問題になりました。今回のG20では、特定の社名は挙げられていませんが、アマゾンのような重要な活動を行う現地大型倉庫は『恒久的施設』として課税すべきである、という合意ができました。今後、租税条約の改定が進めば課税できるようになります」
国際課税を強化したい英税務当局の意図的なリークが背後にあったのだろう。スターバックスやグーグル、フェイスブック、アマゾンなどの税逃れは連日大きく報じられた。納税者の怒りは英国から欧州大陸に広がり、ついには国際社会を動かした。しかし日本ではこうした動きはほとんど見られなかった。というより、アマゾンに対する追徴課税のように処分の後、訴訟にでもならない限り、真相は闇の中というのが実情だ。
日本の多国籍企業は本社で特許権などの無形資産も集中管理しており、「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」のようなスキームを使う例はほとんどない。一方、英国では法人税の低いアイルランドが近く、特許権に対する優遇税制などをめぐり欧州諸国との間で「租税競争」が繰り広げられている。日本は幸か不幸か、生き馬の目を抜く租税競争とは縁遠かったとも言える。
これまで日本の国税当局は、多国籍企業から税金をとりそこねてきた。その代表例が、日本国内に支店や子会社を置かない外国企業がインターネットを通じて音楽や電子書籍、広告を販売する電子商取引だ。大和総研は「国境を越えた海外電子コンテンツの市場規模」について、2012年には総額で5119億円に達し、消費税を課税できないため247億円の税収が失われたと指摘している(※2)。だが今年度の税制改正で、国内に支店や子会社がない外国企業の電子商取引にも課税できるようになった。