強すぎる「規制」が業界全体を直撃する
VWスキャンダルは自動車業界に3つの構造的な変化をもたらすだろう。第1は、厳しい規制強化の波だ。第2に、その結果、規制強化が技術革新に先行する時代が再来し、業界の収益環境が悪化する。第3に、生き残りをかけ、電化パワートレインや自動運転など、エレクトロニクス技術の進化が加速するだろう。
大気汚染(NOx、PM、HC等)の問題解決は既にピークアウトし、今後の自動車産業の課題は温暖化ガス(主に二酸化炭素=CO2)削減に絞られる――。一部のそうした現状認識を、VW問題は覆したと言える。不正を犯したVWに限らず、試験数値と実走行時との間で排ガス数値に大きな乖離があることは、以前から規制当局の関心事項だった。VW問題によって、実走行時の規制強化は避けられそうもない。
この結果、「RDE(Real Driving Emission)」と呼ばれる新しい試験方法の導入が、より早くなるとみられている。事実、欧州に続き、米国当局も早期導入で動き始めた。
RDEは可搬型排出ガス分析計(PEMS)を車載して、一般実走行の条件で排ガス試験を行うものだ。この規制は2017年から欧州での施行が決定済みだが、メーカーは段階的で緩やかな規制導入を期待していた。しかし、現在の世論はそうした施策を許容しないだろう。当初から厳しい数値が求められるリスクが予想される。
RDEによって規制が厳しくなれば、問題はディーゼルだけに留まらない。ガソリンエンジンも排ガス規制への適応問題に直面するだろう。
そんなところへ「CAFE(企業平均燃費)基準」や「ZEV規制(販売台数の一定割合を電気自動車など排ガスゼロの車とするよう義務付ける規制)」といった米国で行われている規制が、世界中に広がろうとしている。これらの3つの規制を同時にクリアしつつ、性能を落とさず、収益性を確保することは容易ではないだろう。
規制強化が技術進化を大きく先行する時代を迎えたのだ。これから自動車産業は、規制対応へのコスト上昇、商品力の低下、収益性の悪化に悩まされるリスクが高い。