スズキ、VW「痛み分け裁定」の意味

フォルクスワーゲンとの提携解消で記者会見する鈴木俊宏社長と鈴木修会長(右)。

「喉に引っかかっていた魚の小骨が取れた気分だ」――。8月29日(英国標準時)、ロンドン国際仲裁裁判所がスズキと独フォルクスワーゲン(VW)の提携が2012年に解消されたと認めるという判断を示したことについて、鈴木修会長は30日の会見の席でこう満足げに語った。一方で、同裁判所は契約違反があったのはスズキ側であったことも認めており、痛み分けの裁定。両社はリーマンショック後の09年に包括提携を電撃的に発表して業界を驚かせたが、具体的な提携の成果をまったく出せないまま“ケンカ別れ”することとなった。

もともとこのケンカの発端は、VWがアニュアルレポートでスズキのことを持分法適用会社と記載したことだった。提携時、スズキはVWの出資比率が20%未満であることをもって、「スズキとVWが対等であることの証」と喧伝していたが、ドイツの商法では出資比率が20%未満であっても、経営に大きな影響力を行使できる場合は持分法適用会社とみなすことができることになっている。VWがスズキに対し、同社の世界戦略の一翼を担う存在となるという期待を寄せていたことの証でもあるのだが、スズキにしてみればVWの経営の巧拙に振り回されるような存在にはなりたくないのも確かで、反発する心情は理解できる。

スズキはVWに対して、自動車の電動化技術をはじめとする環境技術を思うように得られないことへの不満を爆発させていたが、これはスズキの見立てが甘かった可能性が高い。今回の裁定では、スズキに対するVWの技術開示が不適切だったという判断は出ていない。スズキは過去、長年にわたって米ゼネラルモーターズ(GM)の傘下にあったが、「近代的な車作りの手法はすべてGMから教わったようなもの」(鈴木修氏)というほどにGMは気前が良かった。その経験から、VWとの提携でも小さなギブで大きなテイクを得ようというちゃっかり戦術が通用すると考えたとすれば、それはいくら何でも楽観的にすぎるというものだろう。

そんな思惑はともかく、スズキからの“離婚”の申し立ては認められ、これからスズキは当面、独立独歩で自動車業界の荒波をわたっていくことになる。スズキは年産300万台規模とスケールが小さく、しかも大半を軽自動車やコンパクトカーが占める。そのスズキが独力で生きていくことはできるのだろうか。