危機感で挑んだ研究開発改革とは

車両重量600kg台という超軽量を生かしてJC08モード燃費37km/リットルを達成した「アルト」。

スズキはその性能を、部品価格が高い直噴システムではなく、安価なポート噴射インジェクションを2本使うシステムを使うことによって、低コストで実現させている。これもデンソーとの協業で生まれたものだ。スズキ以外では、スウェーデンの小規模メーカーであるボルボがやはりデンソーの提案技術をもとに共同開発を行うことによって、コストを抑えながら高性能なディーゼルエンジンを完成させている。コモディティ化が進んだ分野については、サプライヤーとがっちり協業することさえできれば、規模の小ささはもはやアゲインストにならない時代が来ているのである。

3番目は設計技術そのものの進化である。スズキは今年前半に発売した「アルト」やソリオについて、他社と比べても抜きん出て軽量なボディを作り上げてきた。普通の鋼材を使う車としては、今や世界で最軽量クラスである。かつて、衝突安全性やボディ剛性を維持したまま車を軽く作るには、大変な資金力と人手が必要であった。実際に作ってみて、散々実験をやらなければ本当のところがわからなかったためだ。が、今ではシミュレーションソフトの発展によって、無駄な実験を極限まで減らすことができるようになった。良いものづくりの鍵は、マネーや人員リソースから個々のエンジニアのイマジネーションへと移りつつある。

「みんなが奮起して、マイルドハイブリッドの実用化、軽量化による燃費向上など、VWとの提携で実現させたかった課題はほとんど解決できたと思っている。従業員、なかでも技術者には感謝している」(鈴木修会長)

この言葉は、まさに鈴木俊宏社長の言う「やればできる」に重なる。VWなしでもやれるところを見せつけることができなければスズキの存亡に関わるという危機感で挑んだ研究開発改革が、結果的に自動車技術のコモディティ化に適応した新しい車作りのポリシーを手に入れることにつながったのだ。まさに「災い転じて福となす」(鈴木修会長)である。

もちろんスズキも、永久にどことも手を組まないというわけではなかろう。GM傘下で気前良くいろいろな技術やノウハウを教えてもらえたという甘えがVWとの提携では完全に裏目に出たことで、足元を見られるような要素を抱えていたら提携は失敗するということを身に染みて実感した今、すぐにパトロンを見つけようと焦ることはないであろうし、またその必要もない。次に提携に踏み切るのは、自動車メーカーにとって規模が最もモノを言う生産への巨大投資の必要が生じた時になる可能性が高い。それがいつになるのかは、新興国の経済がいつどこで、どのような形で急成長を遂げるかということが左右することになるだろう。

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