「不正を見つけようとしていたわけではない」
独フォルクスワーゲン(VW)がEPA(連邦環境保護局)から2リットルターボディーゼルエンジンのECU(エンジン制御ユニット)に排出ガス検査を不正にパスする違法な制御プログラムが組まれていると糾弾されてから約1週間。その影響はVWのマルティン・ヴィンターコルンCEO(最高経営責任者)の辞任にとどまらず、世界の自動車業界に拡大する様相を呈しはじめている。
今回の問題を突き止めた環境NGO(非政府組織)のICCT(The international council on crean transportation=クリーンな輸送に関する国際評議会)は他メーカーの排出ガスについても規制値を大幅に超えるケースがあると指摘。これに対してBMWやダイムラーは「我々は排出ガス規制に準拠させるのに違法なプログラムは使用していない」と真っ向から反論している。
VW以外のメーカーの反論はもっともなものだ。今回の問題はあくまで、一定パターンで行なわれる排出ガス検査であることを検出したときだけ排出ガスレベルを減らすようエンジン制御を行なうという不正プログラムが組まれていたことであって、まともに排出ガス検査をパスしたクルマについては、たとえば検査時の走行モードにない急加速で排出ガスレベルが高かろうと違法ではない。これはディーゼルだけでなくガソリンエンジン車も同じ話である。
では、ICCTは単に欧州のディーゼル車に難癖をつけているだけなのかといえば、それも違う。ブルームバーグの報道によれば、ICCTの依頼でディーゼル車の排出ガスを研究していた米ヴァージニア大学のアービンド・ティルベンガダム氏は「最初からメーカーの不正を見つけようとしていたわけではない。何か違った発見をすることを期待して検査していただけだ」と話したという。
何か違った発見を期待して行なっていた検査とは、2017年に欧州でも導入が予定されている世界標準の排出ガス検査の走行パターン、WLTCモードによる試験。欧州では制限速度130km/hの高速道路走行モードまで含むフルテストとなるという(日本は97.4km/hの郊外路までを導入する見通し)。
すなわち彼らがやっているのは将来規制の先取りテストであって、各社が不正をしていると言っているわけではない。現行規制に対応していようとも、新しい基準ではメーカーによって差はあるものの、調査結果は度を越えてボロボロというクルマが少なからず存在しており、排出ガス削減技術の開発をさらに加速させるべきだと指摘しているのである。そのレポートはICCTのホームページに掲載されている(http://www.theicct.org/sites/default/files/publications/ICCT_NOx-control-tech_revised%2009152015.pdf)ので、興味のある方はご覧いただきたい。