医療機器や手術道具の開発にも携わりたい

日々、外来診療や手術をしながら多くの高齢者と接していますが、第一線の仕事をリタイアした高齢者の中にも、熟成されたアイデアを持っている人が多いことを実感します。そういったアイデアは、社会の中でなかなか生かされずに眠っていることが多いのです。自分自身も、外科医として手術をする中でしている工夫がいろいろあります。一緒に手術場に入っている医局の心臓外科医にはある程度、その技術や工夫は伝えられますが、それらの工夫を自分の中や医局内だけに留めず、何か製品化するような方向に持って行きたいと最近よく考えます。

料理の世界では、野菜の皮など今まで捨てていたものを活用して違う料理ができたりすることがありますよね。再生医療がその発端になるのかもしれませんが、これまで無駄だと思っていたことを次の健康福祉にどう生かすか、医療者はもっと工夫しなければなりません。医療界ではベンチャーが少ないこともあり、現場のアイデアを生かす努力が欠けています。あと何年間手術を続けられるかはわかりませんが、技術を後輩外科医に伝え、後世の医学に役立つような医療機器や手術道具の開発にも携わっていきたいと考えています。

天野 篤(あまの・あつし)
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。
(構成=福島安紀 撮影=的野弘路)
関連記事
インドで見た「早い、安い、うまい」医療が日本を救う
なぜ高額な最新治療に積極的に関わらないのか
「神の手」のかわりにロボット。「外科医」ではなく内科医。変わる外科治療
手術中の判断ミスで患者が続けて亡くなれば外科医を辞める覚悟
昼飯代をケチりすぎると、将来の医療費が増大する?