自分が進歩している限り手術を続ける

10月半ばに60歳になります。同年齢の郷ひろみさんが、還暦を意識したくないとし、「これからも高みを目指す」と発言していましたが、まったく同感です。

順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授 天野 篤

ただ、30代~40代の頃には、自分が還暦になっても第一線の心臓外科医としてメスを握っているとは思っていませんでした。でも、今のところ“手術マシーン”としての機能は衰えていませんし、若いときよりも無駄な動きがなく、むしろ効率的にスピードアップした手術ができるようになっています。世界にはまだまだ上がいて、心臓外科医のパイオニア的存在で世界中の心臓外科医から尊敬されている米国人のミハエル・ドベイキー(Michael DeBakey、故人)博士は、90歳まで現役の外科医として執刀していたそうです。さすがに、90歳まで執刀すれば周囲が大変なので、そこまでは続けませんが、自分が進歩していると思えるうちは、毎日手術を続けたいと考えています。

そのためにも、目の前の手術に全力投球できるように、常に心身の状態を整えるようにしています。私が健康維持のために心がけているのは、月並みかもしれませんが、睡眠時間の確保とできるだけ階段を使い体力を維持することです。いろいろな健康法が唱えられていますが、結局は早寝早起きが一番で、できることだけやればいいのではないでしょうか。外部の会議や他の病院での執刀のために移動するときには乗り物の中で必ず寝ていますし、夜も、次の日の手術のためにきちんと眠るようにしています。何時に寝ると決めているわけではないのですが、何か読んでいるうちに11時半くらいには眠りについている感じです。

朝は通常は4時半か5時頃、自然に目覚め、新聞やメールに目を通し、手術前にひと仕事します。自宅から大学病院までは1時間近くかかるのですが、私にとっては、通勤時間は無駄な時間ですし体力を温存するためにも、長年、平日は大学の教授室に寝泊まりしてきました。自宅から通勤するのは月曜日の朝だけです。妻には迷惑をかけていると思いますが、週1回くらい家で寝ていれば体力的には問題ありません。まるっきり体が軽いという状態をここのところ体験していないからかもしれませんね。少し負荷がかかった状態が普通で、その方が調子は良いように思います。