医学部ブームの裏側で何が起きているか
受験生にとっては、追い込みのシーズンになりました。ここ数年医学部ブームが続いており、読者の中にもご自身が医師を目指していたり、お子さんを医学部に進ませたいと思っていたりする方がいるのではないでしょうか。
先日、私のところにも、高校生、医学生、そして研修医が、心臓外科手術の見学に来ました。中には、ぜひ、心臓外科医になってほしいと思うような有望な若者もいるのですが、残念ながら、既に研修医になった人でも自分勝手な解釈による自己利益しか頭にない人もいます。自分が患者だったらそういう医者には診て欲しくないと思うので、医局員は増やしたいところではありますが、一緒に働く仲間には加えないようにしています。
多くの医学生は、成績がいいから医学部を目指し、どの大学を受けるかも偏差値で決めることがほとんどでしょう。日本の医学部入試制度や進学指導が長年にわたってそのような方向で医学生をつくってきたことが大きな原因となっています。医学部ならどこでもいい感じで、教授陣の顔ぶれや教育方針や各大学の特色を調べて選んでいるわけではないようです。本来は、A先生の授業を受けたいとか、こういうことがやりたいからB大学にするといった選び方をすべきではないでしょうか。オープンキャンパスなども盛んにやっているわけですから、大学のほうももっと情報を公開して、大学の特色や、特徴のある授業をアピールしたほうがいいと思います。
ただ偏差値が高いだけで漠然と医師を目指し、努力もしないで自分は選ばれた人間であるかのように勘違いした状態で医師になってしまうと危険です。医師になれば安定した生活が送れるので、早く一人前になりたいと考えるのは、まだ患者さんを診察しようという意欲が失せていないだけましなのかもしれません。自分は選ばれた人間なのだから、新しい治療を実施して有名になろうとか、患者さんを診るのは二の次で患者さんの顔がレセプト(診療報酬表)に見えて、その枚数を稼いでお金儲けができればいいというふうになってしまう恐れがあります。
<医師には知らざるは許されない。医師になることは身震いするほど怖いことだ>
これは、2002年4月16日付の朝日新聞の「私の視点」に「医学生へ 医学を選んだ君へ問う」というタイトルで掲載された金沢大学名誉教授の河崎一夫先生の文章の一節です。私はこの新聞の切り抜きを、教授室に貼っています。少し長いのですが、一部を紹介します。