医師になった恩恵を社会に還元しなければならない
目標を立てて、その目標に向かって実現を得るために努力することは、社会の中である一定の責任を背負っている方たちは経験してきたことだと思います。世のため人のためと思ってやったことでも、その中には失敗もありますから、自分、他人、物に対してのダメージ、周囲に対してのダメージ、世の中に与えたダメージがどのくらいか、取り返しがつくかつかないか、そういう分析をしっかりすることも重要です。自分やチームとして実施したことを、1週間、1カ月、四半期、半年、1年間といったスパンで振り返り、今年はこれだけのことができたから、来年はこんなことができるといった予測のもとに経時的な目標を持って動くことが大切です。
先日、これまで24年間勝利を得ることができなかった日本のラグビーチームが、世界最高峰のワールドカップで番狂わせとも思われる南アフリカから劇的な勝利を得て、その後もサモア、米国に勝利しました。残念ながら決勝トーナメントには進めませんでしたが、その結果もさることながら、世界一と評価される猛練習が紹介されていました。これに対して異を唱える世論は聞こえず、さらに精進して次の日本大会ではもっと大きな成果をと期待は高まるばかりです。
われわれ医師の世界も一部の自己利益だけを追求する同業者が存在するうちは世界一にはなれないでしょう。全ての同業者が世界をリードする業績を賞賛し、さらなる成果を期待するようになって初めて世界一の医療体制と言えるのではないでしょうか。番狂わせではない確実な進歩を勝ち取るためには、医師になることがゴールと考え、その後はしらけた観衆になるような若手を減らし、患者貢献・社会貢献を責務とする医療界を構築することが大切だと思うのです。
経済界では、災害や諸外国からの影響を受け、自分の努力だけではどうにもならないことも起きます。しかし、医療の世界は、そういった外界の影響をあまり受けずに相当予測した状況で動ける利点があります。将来の人口動態を踏まえて、きちんとした将来ビジョンのもとに医療者が動くようになれば、もっと医療もよいものになるのではないでしょうか。特に、医師は自分ひとりの力で医師になれたわけではなく、国立大学はもちろん、私立大学でも国からかなりの助成を受け税金を使って育てられています。最低でも20年、私の場合は40年かけて、その恩恵を社会に還元しなければならないと考えています。
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。