大阪・梅田暴走事故を引き起こした「大動脈解離」

大阪・梅田の繁華街で、2月25日、乗用車が暴走し11人が死傷する痛ましい事故が起きました。暴走した乗用車を運転していた男性(51)は、事故直前に大動脈解離を起こして心臓の機能が急激に低下し、意識を失っていたとみられています。

順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授 天野 篤

大動脈は直径2~3センチと体の中で最も太い血管で、心臓から全身に血液を送り出す大事な役割を果たしています。一般的には動脈は内膜と外膜との2層構造でつくられていますが、大動脈はもう一つ中膜という構造を有し、3層になっています。手足の細い動脈よりも弾力性があり血圧を保ったまま重要臓器へ血液供給を行います。

大動脈解離は、その血管の最も内側にある内膜が高血圧の影響を受けて、玉ようかんがむけるように突然裂け、大動脈の壁を縦方向に引き裂く病気です。その際に最も外側にある外膜はティッシュペーパーくらいの薄さで血液を受けるために、解離直後から血液が血管外に浸みだしてしまいます。

大阪の事故は、浸みだした血液が心臓を包む心嚢という袋に急速に溜まったために心臓の動きが抑えられ血圧が低下してしまったのです。その結果、突然の胸痛で車を停車したものの、意識が遠のく中で混迷からアクセルを踏んでしまい、意識消失を引き起こして大事故につながったと考えられます。

この病気はたとえショック状態になって、病院に運び込まれ一命を取り止めても、救急処置で突然死することさえあります。それは、救急室で診断不確定のまま血圧を上げすぎると薄い外膜が破裂して大出血を起こすからです。直ちに人工心肺を装着することが唯一の救命処置です。このような恐ろしい病気なので、心筋梗塞とともに心臓突然死の原因となっています。2006年にはタレントの加藤茶さんが発症し、一命をとりとめられました。2013年12月には歌手の大滝詠一さんもこれに近い状態で突然死されています。