真のグローバル企業を目指す道しかない
そこで、14年6月に長谷川氏が決断したのは、社長兼最高執行責任者(COO)に英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)出身のクリストフ・ウェバー氏(現・社長兼最高経営責任者)を起用することだった。
創業家の影響力が色濃い武田にとって、外国人経営トップには社内や株主に反発が広がったのは言うまでもない。手薄だった新興国開拓を進め、世界のメガファーマ(巨大医薬品資本)と戦えるグローバル企業を目指すには、海外、とくに新興国での経験が豊富なウェバー氏の起用は不可欠との判断だった。武田は既に財務、調達、研究開発の各部門のトップを外国人で固めており、ウェバー氏の起用はグローバル人材による経営布陣の総仕上げだった。
それから1年あまり後、フランソワ・ロジェCFOが突然、辞任を申し入れ、6月26日付で退任した。食品世界最大手ネスレに引き抜かれたためで、同日開催された株主総会の2日前に発表された電撃退任に、株主の不信感が募ったのは否めない。ウェバー社長にしても15年3月期に赤字転落し、16年3月期での業績回復が必達なだけに、全社的なコスト削減策「プロジェクトサミット」の旗振り役が退いたのは大きな傷手で、「大切な同僚を失った」と落胆を隠さなかった。
ウェバー社長自身も一部報道で仏サノフィの次期CEO候補に取り沙汰されるなど、武田には試練が付きまとう。前のめりでここまで突き進んだグローバル化の道は逆戻りできない。その意味で、「試練の連鎖」を断ち切る“妙薬”は、退路を断って真のグローバル企業を目指す道を選ぶ以外にない。