野球は人生、塞翁が馬

セーレンにも軟式野球部があり、天皇杯では優勝したこともある強豪チームです。私も時間があればグラウンドに出て、指導することがあります。私が高校球児だったことを社員は知りませんから、ピッチャーの横に立って指導しようとすると、「そんなところに立つと危ないですよ」と口々に言う。仕事のことならまだしも、なぜ会長に野球のことを口出しされるのかと怪訝そうな様子でした。グラウンドでは、仕事のときほどに私の話を真剣に聞きません。

野球に限らず、スポーツに励んできた人には前向きに努力する人が多いと思います。なかでも野球のようなチームプレイのスポーツでは、仲間と一致団結し、同じ目標に向かって努力するという素晴らしい経験が仕事でも生きると思います。

9回まで続く野球は、人生と同じです。途中ではいろんなことが起きます。なかには「今日はついてないな、勝てないかもしれないな」という日もあります。それでもあきらめずに、一瞬一瞬を冷静に判断して対処していくことで、道が開けることもあります。私の人生を振り返ってみても、人生は塞翁が馬。仕事も人生も思うどおりには行かないからこそ、その時々の判断をおろそかにしないことが大事ではないでしょうか。

私の野球にしても、本来は2年生で退部して大学受験に専念するつもりでしたが、思いのほか強いチームに恵まれて3年生の夏まで続けることになりました。受験勉強に打ち込む友人たちのことが気にならなかったと言えば嘘になります。しかし、自分は野球で甲子園を目指すと決め、限界にまで挑戦した経験は、かけがえのないものだったと思います。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/
(前田はるみ=構成)
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