設計図を精査して、少しでも戸々の専有面積を増やす。そうすれば、買い取り単価を値切っても、面積の増加である程度は相殺できる。より安い建築業者を紹介し、建築コストも引き下げる。そんな提案を重ねても、市況下落に追いつかない。業者のほうも、市況には通じており、長い付き合いを重視するから、最後は「痛み分け」となる。だから、そういう業者との付き合いを大事にし、ときには北海道でのゴルフにも同行した。そんな自分をみれば、担当者たちも業者回りに力を入れるし、「この課長についていけば、大丈夫」と信頼してくれる。
横浜支店への赴任は、予想外だった。それまで本社の人事部で、査定や異動を担当する筆頭課長代理。そこで、横浜で用地担当の指揮官を7、8年も続けていた先輩の異動先探しに参加したが、後任がみつからない。発令2週間前、辞令書を書いていた部屋に「決まったから、どうぞ」と言われて入ると、自分の名前があった。上司の課長は「要は、ほかにいなかった」と言うだけだった。
朝会では、リストに載せた有望な50件の状況を質した後、担当者が新規に持ち込んだ100件近くも吟味する。結局、ほとんどが買収までいかないが、「鵜匠」のような立場としては、ともかく15羽の「鵜」が獲物をくわえてこなければ、仕事にならない。だから、全部の話を聞く。支店長や本社につなぐ物件では、部下の代わりに、うまく説得した。
一心同体と言っても、甘いわけではない。実は、よく担当者を叱った。とくに売買契約に遅れてきたら、その場で怒りを爆発させ、「相手もいるから後で」とはしない。怒りが和らいで、怒られた人間の身にならないからで、すぐに「きみがやったことは、用地マンとして失格だ」とわからせる。そんなことで、横を向いてしまう部下は、いなかった。
「君者舟也、庶人者水也」(君は舟なり、庶人は水也)――君主と人民の関係を舟と水に喩えた言葉で、中国の古典『荀子』にある。舟の安全は水の安定次第で、一体感を持って動かねばいけない。同様に、君主が安泰を保つには、人民に信頼され、ともに動き、支えられることが大事だと説く。部下たちを遠慮なく叱りながらも、常に一体感を大切にし、ともに動く菰田流は、この教えと重なる。