医師と患者で異なる「治る」の意味合い

そして患者さんは「治る」ということに関して、正しく認識してほしいと思います。

実は「治る」という言葉は、医師サイドと患者サイドで、大きな差があるのです。

多くの患者さんにとって「治る」は「元気で長生きする」ことであるはずです。

しかし、たとえば抗がん剤を手がける医師から見た場合、抗がん剤によってがんが50%以上縮小した期間が最低4週間あれば、「効果あり」と認められます。

極端なことを言えば、患者さんのがんが50%以上小さくなって、抗がん剤治療の4週間後に亡くなったとしても。医師からすると、そのケースは「抗がん剤は効いた」、そして「抗がん剤によってがんが治った」ということになるのです。これは、患者さんにとっての「効く」とは、かなりかけ離れたイメージではないでしょうか。

医療の現場においては、患者さんと医師の認識の間に、このような乖離がしばしばあります。

そして突き詰めて考えると、優秀な医師が最先端の医療を活用しても、「治す」ことができない病も少なからずあります。

私自身、若い頃は脳外科の道を選んで脳外科のスペシャリストを目指しました。ところがどれだけ技を尽くしても、治したい人を思うようには治せないのです。脳外科医だった当時、「医療とは何のためにあるか?」という根本的な問いに自分自身が答えられなくなり、医療の最前線から「降りる」ことにしました。そして、患者さんの患部に限らず、人格をも含めた全体を捉える方向へと考え方をシフトしました。すると、違った風景が見えてきたのです。サバイバーを目の当たりにしたとき、私は彼らから多いに学ぶべきだと気付いたのです。

一般的な医療の現場では、標準治療以外で治った患者さん(「逸脱した事例」)は「例外」とされ、「なぜ治ったのか」という点に関してはまったく関心を持たれなくなります。それは非常にもったいないことです。

本質的なことを言えば、たとえ「例外」でも治ればいいはずです。「例外」というレッテルを貼るのなら、その「例外」の事例を増やせばよいのです。どうしたら「例外」が増えるか、どのようなことで「例外」が増えるか、本書のように共通項を探して、広く一般に広めればよいのです。

「例外」となる確率が上がることには、本書にあったようなヨガや呼吸法、食生活の改善など、さまざまな要素があります。

私たちは、ときにサバイバーを含むがんの患者会の皆さんと共に活動しています。結局のところ、本書にあるような「治っている人がいる」という事実こそ、がん患者さんの直接的な励みとなるからです。

サバイバーが気軽に情報を発信したり、誰もがアクセスできるウェブ上のシステムや、リアルなコミュニティーが各地にできれば、がんに対するイメージも変わってくると思います。

※本稿で紹介している『がんが自然に治る生き方』原作(ケリー・ターナー著)のウェブサイト(http://www.radicalremission.com/)では、劇的な寛解(がんが自然に寛解したり進行しない例)について、誰でも投稿・公開できるようになっています。

岡本裕(おかもと・ゆたか)
医師、医学博士。1957年生まれ、大阪大学医学部、同大学院医学部卒業。麻酔科、ICUの研修を経て脳外科専門医になり、悪性脳腫瘍の治療に取り組む。細胞工学センターでがんの免疫療法、遺伝子治療の研究を行う。その後、現在の医療・医学に疑問を持ち、仲間の医師たちと「21世紀の医療・医学を考える会」を設立。 2001年から、本音で応える医療相談ウェブサイト「e-クリニック」(http://www.e-clinic21.or.jp/)を運営する。
(構成=山守麻衣)
関連記事
「がんが消える」患者は決してゼロではない
末期がんから自力で生還した人たちが実践している9つのこと
がんを克服するための感情マネジメント
免疫を強化してがんを治す遺伝子スイッチの可能性
「がんを自分で治そう」と立ち上がった人々