混合診療の「解禁」は誰も幸せにしない
日本はすべての国民が医療保険で治療を受けられる「国民皆保険」だ。しかしアメリカでは無保険者が約4800万人に上る。アメリカでは臓器ごとに、またはあらかじめ決めた一部の疾病やケガに応じて民間の保険会社と契約する。すべてをカバーできる「良い」保険に加入できるのは金持ちだけ。
「TPPへの参加により、もっとも危惧されるのは混合診療の全面解禁です。アメリカ型の医療制度になる危険性がある」と色平さんは心配する。
混合診療とは、公的な健康保険を適用した診療と、医療機関が独自に価格を決める自由診療を併用した診療だ。経営が厳しい医療機関が割のいい自由診療に飛びつくのは目に見えている。すると保険診療の枠が狭まり、やがて国民皆保険が崩壊する可能性もある。
「儲けを優先させる医療機関ばかりになれば、誰も予防に取り組まなくなる。ただでさえ人手が足りない地域の医療システムが崩壊してしまうのです」
医療システムの崩壊は、地方だけの問題ではない。2025年、65歳以上の高齢者が3600万人を超す。東京に隣接する神奈川、埼玉、千葉の高齢化が著しく進む。これを色平さんは「三県問題」と命名した。しかし病院のベッド数は限られている。核家族が多いため在宅治療も限界がある。何より都市部では、農村に根付くようなソーシャルキャピタルは崩壊している。
「都市部で認知症になったらお金などの管理ができなくなり、生活が困難になる。一方、農山村では長年続いてきた人間関係の支えがあります。都市部に比べ、生活上の不都合も少ない。かつて長野には無医村が数多くあった。そんな状況で必死に工夫して築き、つくり上げたのが、地域の人間関係やネットワークを活かした予防だったのです」
病気を治すだけではなく、病気の予防を心がける。長野県の長寿を支えているのは、地域で培われた県民一人ひとりの意識なのかもしれない。
大往生のための「AKA」
・医者を(A)あてにしない
・(K)期待しない
・(A)あきらめる
病気になってから「名医」を探すのではなく、普段から予防に励むことが重要