老後を安心して送るには高齢者住宅、介護施設、在宅介護サービスをじっくり吟味し、自らが選ぶ時代を迎えている。
知らないではすまない、介護の厳しい現実
老後の暮らしを具体的にイメージできている人は少ない。けれども、まじめに人生を歩んできた人たちにとって老後は、特別である必要はなく、おそらく平凡であることが、何よりもすばらしい結末だと思われているのではないだろうか。
けっして贅沢を望むわけでもなく、体を大切にして年金とわずかな貯蓄を取り崩しながらなんとか日々の生活を続けていく。いけるところまで自宅での生活を守って、最終的には高齢者施設でお世話になることがあっても息子たちに迷惑をかけない人生を全うする。ささやかでも身の丈に合った暮らし方が理想となるが、それさえも簡単に手に入れることのできない現実が目の前に突きつけられている。
社会福祉政策は、国民の暮らしを守るという観点から、戦後の混乱期以降、着実に構築されてきた。ところが、バブル経済が崩壊した1990年代から雲行きは怪しくなった。超高齢社会の到来によって、経済成長の鈍化に加えて、「介護」という新しい負担が生み出された。介護にかかる労働と経済的な負担は、家族だけではとうてい支えきれないところにまできたのである。
そんななかで生まれたのが、各家庭で介護の必要な高齢者をそれぞれ抱えこむのではなく、地域、社会全体で支えていこうという考え方である。これが、介護保険制度であり、介護に必要な費用も社会全体で負担する仕組みとして構築された。「介護の社会化」という仕組みづくりは広く受け入れられたが、いま一度その背景を探ってみると、介護保険法が成立した97年は、消費税が3%から5%に引き上げられた年であることと重なる。いわゆる「税と社会保障の一体改革」はすでに実施されていたのである。
介護保険制度によって、日本のどこに暮らしていても、必要なサービスを介護報酬(サービス利用料)の自己負担1割で受けられる、という老後の安心がかたちづくられたように感じられたものだ。しかし、制度がスタートしてから13年目に入った今日、国民の生活は本当に安心につつまれているのだろうか。いみじくも消費税の引き上げと同時に決まった介護保険制度は、無尽蔵に膨れ上がっていく医療保険費用と同じ轍を踏まないためにも、はじめから費用の増大を抑制するという縛りがかけられた制度であったと見ることもできる。