老後を安心して送るには高齢者住宅、介護施設、在宅介護サービスをじっくり吟味し、自らが選ぶ時代を迎えている。
高齢者が集うコミュニティ・カフェ
「お父ちゃんおかえり」
「あ、ただいま」
お客さまを出迎えるスタッフの山神明日香さんがかけた言葉に、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべる男性客は、おそらく指定席になっている4人がけのテーブルに腰を下ろした。
「ランチでいいのかな。ご飯は大盛りにする? コーヒーは薄めのほうがよかったんやね」
男性の好みをわかっている山神さんの言葉にうなずくだけで、テーブルの上にお昼ご飯が用意された。
福岡空港にほど近い博多区月隈に12年5月に誕生したG・マザーズカフェ月隈は、高齢者を対象としたコミュニティ・カフェだ。モデルとなったのは、アメリカのシカゴにある高齢者専用カフェである。高齢者のためのスターバックスというコンセプトで、市内に3店舗を構えている。朝食をシティホテルや町のカフェよりも格段に安く(5ドル程度)おさえ、新聞や雑誌を取り揃えて何時間でも滞在できる。もちろん、コーヒー1杯でも利用可能で、ここにやってくる高齢者のコミュニティづくりに貢献している。
部屋の電球が切れたと聞けば、交換の手配を行い、仲間で旅行に行きたいという要望には旅行会社が駆けつける。フィットネスや歴史、映画鑑賞などのカルチャースクール、税金の申告に必要なパソコンの操作やフェイスブックの講座も用意されていた。
このカフェが人気を集めた背景には、日本と同じように高齢者の日常の暮らし方に変化が現れていることと関係している。アメリカでも老人倶楽部ははやらない時代になった。自分から進んで参加できるコミュニティを提供することによって、こうした高齢者のニーズをしっかりと掴んだようだ。
ケア21は、訪問介護事業、特定施設、グループホームなどを全国展開している介護事業者であるが、今回、新しいコンセプトで高齢者コミュニティづくりに挑戦している。
「押し付けるものではなく、高齢者の方が進んで参加できる場を提供したいと考えていました。自然発生的に高齢者が集えるような環境づくりを始めることが、これからの高齢者事業にとって必要な視点だと思います」