横浜のような政令指定都市と同じように日本航空もグループで3万人以上の社員を抱える巨大組織だ。
植木義晴社長は、パイロット出身としては、初めてのトップである。エレベータとは違うが、コックピットのような密室でも雑談がコミュニケーションの潤滑油となる。
とりわけ国際線ともなれば10時間前後、一緒に飛ぶことになる。その間は、ときおりCA(キャビンアテンダント)がコーヒーなどを持ってくるぐらいで、機長と副操縦士の2人きりだ。しかもペアは毎回異なり、フライト当日になって初めて相手のことを知ることがほとんどだという。
「コックピットでは機長が多くの権限を持っています。最高のフライトをするには、副操縦士の能力を目いっぱい引き出さなければなりません。出発前のブリーフィングでは彼の操縦への考え方を探り、操縦席に着席するまでの時間で人柄を掴む。その際に有効なのが雑談です」
そのために、植木社長はいつも仕事の話題以外に野球や趣味、家族などの話題をいくつか用意していたという。例えば「今度の日本シリーズ、何戦までいくかな……」「結婚はしているの?」といった具合だ。「私は阪神ファンですが、相手が巨人だったらその話題は切り替えます」。そう言って彼は笑った。
長いフライトなら、お互いに体力もセーブしなければいけない。だからコックピットでは、仕事上のコミュニケーションとユーモアが適度に必要になるのである。