スキマ時間の会話をチャンスにできるか沈黙で終わるのか。仕事の成果はそんなところでも決まる。
ビジネスマンが職場に着くと、まず足を向けるのがエレベータ。ドアが開いて、ドッと乗り込むと、いつも会う顏、ときどき見かける顔と、日によって様々だ。たぶん、乗っている時間は20秒程度。そこでの感じのいい会話は周囲にも爽やかな雰囲気を生む。
例えば「おはようございます」の挨拶に、「いいお天気で、空がきれいですね」といった簡単な一言を添えるだけで、その場の雰囲気は驚くほど変わると横浜市の林文子市長は言う。
「相手のよいところを一瞬にして捉えることがとても大事。私の場合、気候を話題にしたあとであれば、『まあ、暖かそうなマフラーですね』などと、言葉を添えます。さらに『私もそんなマフラーをしたいのですが、似合わないんですよ』と添えれば『いえいえ、市長さんならピッタリです』と会話が続いていきます」
このように自分を相手から一段下げる謙譲の言葉遣いが場を和ませる。心がけたいのは決してお世辞ではなく、素直な気持ちで伝えることだ。そうした、さりげない会話を馬鹿にしないことが自分の印象をよくする第一歩となる。
林市長は続ける。
「ほんの一瞬のことであっても、人の印象とは人生の積み重ねからにじみ出るもの。いわば、その人の“立ち居振る舞い”です。それを感じよくするには、若いころから積極的に語りかける習慣を身に付けておくことが大切です」
実は2009年、市長就任当時の市役所は規律を重んじていて、冗談や雑談はほとんどなかったという。
しかしそれから1年ほどたってエレベータに乗った際、林市長は初老の紳士から「最近役所の皆さんが親切で、いつ来ても気持ちがいい」と賞賛の言葉をもらった。
エレベータに乗り合わせた職員に、首から下げているIDカードで部署と名前を確認しては「あっ、健康福祉局ですか。忙しいでしょう。いつもありがとう」などと声をかけ続けたことが、こうした意識改革をもたらしたのだ。