黒川は本拠である京都五条烏丸を運営するかたわら、「元気がないホテルの立て直し役」(黒川)として、これまでも全国各地のホテルに出張ベースで訪れては、立て直すための指導を行ってきた。空港の敷地に隣接する中部国際空港本館の場合は、規模が大きいことやすぐには適任の支配人が見つからないことから、黒川自身が総支配人として赴任する形になったのだ。
ここで黒川は、大車輪の活躍を見せる。客室や設備のリニューアルに合わせて、従業員の意識改革を進めたほか、自ら行動することで地元企業への営業体制も一新したのである。その中で一つ、大事な指摘があった。
黒川の前任者は珍しいことに男性だった。稼働率などの数字をどうしても引き上げることができず、最終的には会社を去った人物だ。再建のため中部国際空港本館に黒川が乗り込んだとき、ホテルの各部署は規律が緩み、それぞれの持ち場は薄汚れていたという。何が問題だったのか。
「支配人が現場の仕事をよく知らないから、細かいところに対して適切に指示できず、結局は従業員に仕事を“丸投げ”していたのです。部下に甘く接して、職場の規律を緩めてしまった。これは男性上司によくある欠点かもしれません」と黒川はいう。
裏を返せば、女性支配人の多くは現場の細かい作業に精通しているから、部下に対して「甘くない」指示を出し、結果として職場の規律を守れるということだ。
東横インは10年度を底に増収増益を続け、15年度には最高益を更新する見通しだ。甘くない女性たちが、好業績を牽引しているのである。
その一方、東横インは不思議な人事を行っている。同社は全国のホテルを10のエリアにグループ分けしているが、その「エリア責任者」はほとんどが年配の男性なのだ。
東横インは店舗ごとの独立採算が基本であり、エリアの営業成績が直ちに責任者の成績につながるわけではない。だからエリア責任者といっても、主な役割は支配人の人事評価だけ。あとはもっぱら、支配人たちの相談相手になっている。
この仕組みを考案したのは、西田の長女で12年6月から社長を務める黒田麻衣子だ。