「衆望」を担ってリーダーの座へ
あまたの人々から信頼され、「衆望」を担ってこそリーダーだ、と説く。30年余り前、新日鉄の会長を務めていた稲山嘉寛さんが、経団連会長の土光敏夫さんに後継者に打診された。だが、辞退した。当時、日本商工会議所の会頭だった同じ新日鉄の永野重雄氏も、経団連会長への就任を望んでいた。自分が就任して、経済界を二分するようなことがあってはならない。そう考えて辞退した稲山さんは、「経団連会長という職は、衆望を担って務めるものですよ」と笑った。2年後、第5代経団連会長に就任する。その2年の間に、永野氏も了解し、経済界はこぞって稲山就任を支持した。
前回触れた「10円玉の山と電話」も、福岡で流した涙も、酒席での配慮も、衆望を担う「桃李」へとつながる。34年間、現場ひと筋のなかで、荻田流が磨かれていく。
振り返れば、課長の時代が一番楽しく、やりがいがあった。そのときは、日々追われ続けているから、そんなことはわからない。いま、課長や部長が会社の中で占めている重さを、痛感する。彼らに、託された役割を、きちっと認識してほしい。それを腹の中に落とし、部下と共有する。自分より優れた部下を育てていく。どちらも、課長や部長の責務だ。そんな40代が活性化すれば、会社は、すごく強くなる。
12月1日に、2010年から3年間の中期経営計画を発表し、2015年の目標にも触れた。キリンとサントリーが経営統合すれば、生産性や収益力、原料の購入や販路での交渉力が、すごく強くなるだろう。競争条件は、一新する。いま、ビール業界は、海外展開に力を注ぐ。中国は、世界のビール消費量の4分の1を占めるまでになった。年間に売れる量は日本の7倍。でも、1人当たりでは半分だ。まだまだ増える。中国の大手、青島ビールへ出資し、青島はローカルブランドとのグループ化を進めている。両社で連携し、ここでもトップの座を目指す。
でも、海外展開も、原動力は、やはり国内市場での強さだ。競争相手が経営統合で強くなるとすれば、どうするか。ここも、40代世代への宿題だ。様々な業種の合併や経営統合をみてきたが、大きくなれば、勢いは増すが、組織の舵取りも難しくなる。それが、自分たちにとって、好機になることもある。だから、危機感を共有し、いまのうちにできることはすべてやっておく。「不況もまたよし」ではないが、「競争の激化もまたよし」としたい。
今年は、創業120周年。年初から、キリンとのシェア首位争いが続いた。大晦日まで、デッドヒートが続く。その陣頭に立つ。残念だが、国内市場は人口減や1人当たり消費量の減少で、もう大きくならない。でも、日本のビール会社だから、やはり日本で地盤を維持しなければいけない。そうでないと、世界でも通用しない。ただ、こんなに国際化が進むとは、営業現場を回っていたころは、想像もしなかった。「成蹊」とは、こうしたことか、と思う。