坂本竜馬:1835~67。土佐藩脱藩後、貿易会社と政治組織を兼ねた亀山社中・海援隊の結成、薩長連合の斡旋、大政奉還の成立に尽力したが、維新直前に暗殺される。
最初に読んだのは文庫化されて間もなくの頃、いまから30年以上も前のことです。もともと司馬遼太郎さんの歴史小説が好きで、『梟の城』以来、出版されるたびに読んできましたが、そのなかで、最も感銘を受けたのが、この『竜馬がゆく』でした。
当時はまだ、現在の看板商品である「スーパードライ」がヒットする前で、会社の業績はまさにどん底。厳しい環境のなかで営業担当者として非常に苦しい思いをしながら働いていた時期です。そんなとき小説のなかの坂本竜馬の生き方、言動にとても勇気づけられました。
特に、竜馬が自分の心構えとして持っていた「志士不忘在溝壑」(志士は溝壑(こうがく)にあるを忘れず)という言葉に出合い、共感し、かつ羨ましく思ったものです。
もともとは孔子の言葉であると言われていますが、「変革の志を持つ者は、それをめざす途上で、いつ屍となって溝や谷に打ち捨てられようと構わぬという覚悟を持って、全力で突き進むべきだ」という意味です。実際、竜馬は明治維新の直前に暗殺されてしまいますが、「たとえ死ぬときでも前のめりで倒れたい」という意味の言葉も残しています。
「志士」の部分を「何かを成そうとする人間」と読みかえ、自分の仕事にもそのぐらいの気概を持って取り組むべきなんだと、私は背中を押された思いがしたものです。苦労を厭わず、やるべきことをきちんとやろう、自分の役割を全力で果たそうと思いました。
もちろん、自分は死ぬほどの覚悟は持てませんから、その言葉に共感しつつ、竜馬の覚悟の深さを羨ましいと思ったものです。
幕末という乱世を生きた竜馬から学ぶことは、「このままでいいのか?」という変化への志です。