薩長連合から 今、何が学べるか
現代の企業においても、変化に対応する最大の策は行動することだと思っています。とくに、決めたことを徹底してやり抜くこと。考え、決めたあとは、それをやり切る。ただそれだけのことですが案外、難しいんです。自分たちが徹底的に行動しないまま、結果が出せないことを市場環境や景気のせいにしていないでしょうか。
そこで見習いたいのは、やはり冒頭に挙げた「志士は溝壑に」の気概です。竜馬ほどの境地には到達できないまでも、そういう意識だけは社員とともに持ち続けたいと思っています。
こんなときリーダーに必要なのは、ビジョンや当面のゴール、出口を示し、一つひとつの部署の役割を定めること。さらに、一人ひとりがどういう役目を果たすかという意識を浸透させ、組織を束ねていくことが必要になってくるはずです。
ここでも、各藩の志士を束ね薩長連合や大政奉還をやり遂げた竜馬に見習うべき点がありそうです。
愛される人間性は天賦のものか
2009年春、わが社は中国の青島ビールの株式を約20%取得、オーストラリアでは第2位の飲料会社シュウェップスを完全子会社化するなど、海外でも新しい事業展開を図っています。昨年末時点で売上高のうち約3%を占める海外比率を、今後10%ぐらいまで伸ばしたいと考えています。竜馬ではありませんが、幕末と同じく厳しい乱世においてわが社も海外に目を向けているわけです。
ビール・飲料メーカーの海外戦略は、自動車など他の産業の「進出」とはちょっと異なります。最大の要は、現地のどのパートナーと提携するかなのです。食生活や味覚というものは、その国や民族によって大きく異なるため、地元企業の経験と、我々の持つ品質や生産に関するノウハウなど、互いの強みを活かし合う補完関係が基本です。
国内であっても現代の営業に必要なのは、自社の利益だけを考えるのではなく、いかに顧客の悩みや課題を解決する提案ができるかどうかという点でしょう。海外の提携も国内営業も、相手が求めるものは何か、それを掴むことが大切な時代だと感じています。
薩長連合を成し遂げた竜馬の調停能力は素晴らしいものだと思いますが、竜馬は双方の面子や感情的な対立に配慮して事を進めています。司馬さんの描く竜馬はちょっとずぼらなところもありながら、常に陽気で人に好かれています。相手のふところに不思議なほどあっさり飛び込む一方、相手の立場や気持ちも汲める人物だったのでしょう。そういう人間性がどういうふうに形成されたのか興味は尽きません。天賦のものも大きかったかもしれません。
しかし、何よりそれは、私心を持たず地位にもこだわらず、理想の実現だけを追った結果、もたらされたものだったのではないでしょうか。誰でも地位や報酬、名誉は欲しいものです。しかし、本当の知恵や発想は、私心を捨てて仕事そのものに真っすぐ向き合おうとしたときに、きっと湧いてくるものなのでしょう。