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遺産を巡るトラブルは、金額の多寡に関係ない 金額が多いほど揉めるイメージがあるが、資産が多い家は、対策を立てているケースが普通。逆に揉めているのは資産5000万以下が全体の75%と大多数を占めるのである。

長男の調べによると、亡父が残した土地には曲がり角を通りやすくするために敷地の角を切り取った「隅切り」という部分があった。さらに、家の前の私道は近所の人々との共有資産で、故人はその100分の一の権利を有していた。

「でも、その隅切りなんて畳一畳ほどしかない。なのに、兄は『もし国が道路拡張でこの部分を買いたいと言ってきたら高値がつく』だとか、『私道の所有権だってリッパな資産だ。その分も払わないと、おまえ、家に入れないぞ。家に入りたければ通行権を払え』なんて言い出す始末です。ついては、隅切り部分と私有地の通行権を足して、土地代に300万円上乗せしろと。どうやら兄は、この件で相談に行った弁護士に、悪知恵を吹き込まれたらしい」(同)

これに対抗すべく、香山さんは隅切り部分と私有地の権利価格を不動産鑑定士に調べてもらった。結果、その価値は数万円程度。それがなぜ、べら棒な金額をふっかけられたか?

「こっちの足元を見たんですよ。兄が雇った弁護士は、私が家の建て直しのためローンを組むときに、権利問題がクリアできないとローンが組めないことを知っていたんです。当時の私は会社の労働組合のローンに申請中でした。あと半年もすれば、私は多分課長に昇進する。すると組合から抜けなければならないから、金利の低い組合ローンは今しか借りられないと焦っていたんです。だったら、300万円兄に払ってしまったほうがトク。だから、兄と兄の相談した弁護士は電卓を叩いて、私から300万円までは引き出せる、って考えたんでしょう」(同)

結局、香山さんは家の評価額の半分に加えて、隅切りと私有地の通行権というわけのわからないお金を支払った。当然ながら、その後、兄や兄の家族とは音信不通だという。