「茶釜を返せ」とゴネて時間稼ぎ
身内が遺産相続を巡って、ゆすり、たかり同然の無茶を言ってくる……。
長年、資産家の叔父の介護をし、最期をみとった姪の山元真知子さん(仮名・52歳)も、このパターンの被害者の一人だ。
山元さんの叔父は数千万円以上の多額の金融資産を残し、この世を去った。妻や子どもは、いなかった。
当然、故人の親は他界している。よって、その遺産は故人の兄弟姉妹が相続することになった。しかし、山元さんの叔父は80歳の高齢だったため、兄弟姉妹も亡くなっている人が多い。民法の規定では、こうした場合、故人の兄弟姉妹の子どもが「代襲相続」する。ただし、故人の介護をする、あるいは事業を手伝う、財産を増やすなど、特別な貢献をした人は「寄与分」といって、法定相続による相続分に加えて、別の取り分が認められる場合がある。
もっとも、それを受け取れるのは、他の相続人全員が「貢献したとみなす」と判断した場合だけだ。山元さんは、亡くなった叔父に長年尽くし、献身的に介護してきた実績があったため、故人の兄弟姉妹やその子どもら相続人のほとんどが山元さんに「寄与分」を上乗せすべきだと言ってくれたそうだ。そして、実際に一度は相続人全員により山元さんの寄与分が認められかけた。ところが、一人だけ、土壇場で署名しない者が現れたという。
「相続人の一人である従弟が、彼の親が生前の叔父に借金を申し込んだ際に預けた茶釜を返還してほしいと言い出したんです」(山元さん)
山元さんは思わず絶句したという。
「だったら、アナタの親は、その借金を返したのですか? 本当はそう言ってやりたかったですよ。でも、その人は『あの茶釜は自分の命の次に大事な家宝だ。我々は故人から家宝を取り上げられた。金の問題じゃない。親の名誉のために返してほしい』の一点張りなんです」(同)
山元さんはどう決着をつけたか?
「結論から言うと、そんな茶釜はどこを探しても見つからず、私の寄与分の大半を裏でその人に支払うことで、遺産分割協議をまとめました。揉め事はごめんですし、早くゴタゴタから逃れたかったのです」(同)
結局、山元さんの、介護の労は報われなかったというわけだ。
理不尽な話に思えるが、吉澤税務会計事務所代表で税理士の吉澤大氏は、「遺産分割では介護の労が評価されない」と断言する。
「付きっきりの介護にもかかわらず、故人が亡くなる前の半年間は月9万円、その前は月3万円程度の寄与しか認められなかった判例もありました」(吉澤税理士)
介護の負担を考えれば、あまりに少額だが、城南中央法律事務所所長で弁護士の野澤隆氏によると、その寄与分さえ、きちんと証拠を残さないと認められにくいという。
「介護にかかった費用を証明する領収書、さらに介護にかかった時間も書き留めておくことが鉄則です」(野澤弁護士)