知的な人は、文字の批判に弱い

【齊藤】メールというものは文字で読むので、より刺激的ですね。その場で反論できないし、文字で読むのは言葉で聞くのと違うんです。人間は文字から受け取る悪意のある反応に弱い、特に知的な人は文字に弱いですね。新聞や雑誌など、文字に書いてあると信用してしまう。人の話を聞いていても本当かなと思うけれど、文字を信用する。メールで批判されると本当にグサッときてしまう。

【高城】 結局その会社は弁護士を使って、そのサイトに書いている記事を消させようとして、100万円ぐらいかけて消したらしい。そしたらまたその後ダーッと書き込みが出てきて、もういたちごっこ。結構お金を掛けて、消して書いて消して書いて。

【齊藤】その反応が、流しているほうからするともう……。

【高城】楽しくてしょうがない。人間って周りから見て動揺している姿って楽しいわけですね。

【齊藤】そこが難しいところで、人の出世とか喜びとかを素直に喜べない。人の失敗は素直に喜べる。どうしても自己評価との比較が出てきてしまう。本当はそういうのはよくないと頭の中でわかっているのに、駄目ですよね。人の出世には嫉妬をして、人の失敗にはうふふっとなる。でもそんなことをしたら、みんながそれをやったらどうなるかぐらいのことはわかる。でも心のどこかにそれがある。そういうなかで組織というものは皮肉なもので、他人と協力しなきゃ組織はできない。そういう心の二面性を常に組織の人は誰もが持って生活をしているわけです。

【高城】だから上司や管理職になると、場合によっては人間不信になる人もいます。私も、人事評価のフィードバックをするときに、「結構アイツのことライバル視して気にしていたんだ。こんな細かいことを気にするの?」みたいに、人間は自分の評価に対してすごく細かく見ているんですね。

【齊藤】そう、自分には細かい。

【高城】壮絶なんです。それを見た瞬間に上司自身が人間不信になるときがあります。ところが、そういった「生き物」をマネージしているんだっていうことをむしろ楽しいと思う人もいます。「かわいらしい」「かいがいしい」というか、人間は弱い生き物だと気づいて、性悪説的な行動を正視できるようになると、それはそれで楽しいというか。

『「課長」から始める 社内政治の教科書』にも私は書きましたが、社内ゴシップなど人が傷ついたりとか、些細な比較によって感情が動いたりするものを打ち消して、人は何事もないように淡々と仕事をしている。だから心の中でどろどろ感じているわけです。「人間ってそういうもの」と、ある面で面白おかしく思えないといけないのかもしれません。深みにはまると、ストレスがたまってしまう。

【齊藤】正義感や公平性をすごく強く持つと、逆に人に対する評価が狂ってしまう。その正義感を繕わなければならない。自分が低く評価されたときに、自分は駄目な人間なのかというと、そうではないわけ。難しいことだけれども、相手の気持ちになることが、自分の今の評価を理解するということの一つのポイントになります。

【高城】そう、人事評価制度は会社のためにあるんです。だから自分のためにあると思う必要はない。皆、そこを勘違いしている。会社の中の人事評価は、自分を守ってくれるためではなくて、会社の給料を分配するための便宜的な仕組みです。会社が給料や役職を決めるためにルールがないとまずいから決めているだけ。今後、会社の中で生き残っていくためには、人事評価制度もふまえて戦略的に行動するべきですね。

※本連載は書籍『なぜ、嫌われ者だけが出世するのか?』(齊藤 勇 著)からの抜粋です。

高城幸司(たかぎ・こうじ)●セレブレイン代表。1964年生まれ。同志社大学卒業後、リクルート入社。リクルートで六期連続トップセールスに輝き、「伝説のトップセールスマン」として社内外から注目される。その後、情報誌『アントレ』の立ち上げに携わり、事業部長、編集長、転職事業の事業部長などを歴任。2005年、リクルートを退社し、人事戦略コンサルティング会社「セレブレイン」を創業。企業の人事評価制度の構築・人材育成・人材紹介などの事業を展開している。『「課長」から始める 社内政治の教科書』(ダイヤモンド社)がベストセラーとなり話題になる。Twitterのアカウントは @koji1021。「高城幸司の社長ブログ」 http://blog.goo.ne.jp/k-takagi001021

 

齊藤 勇(さいとう・いさむ)●対人心理学者、文学博士。1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。立正大学名誉教授、大阪経済大学客員教授、日本ビジネス心理学会会長。とくに人間関係の心理学として、対人感情の心理、自己呈示の心理などを研究。TV番組「それいけ!ココロジー」に出演し監修者を務めるなど、心理学ブームの火つけ役となった。『心理分析ができる本』(三笠書房)など、編・著書・監修多数。企業社会などで起こる「人間の足の引っ張り合い」や「いじめ」に関して、社会心理学者としてユニークでわかりやすい論陣を張る。

(高城幸司、齊藤 勇=談 撮影=飯貝拓司)
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