非持続的イノベーションは、当初は主要市場の既存の製品やサービスよりパフォーマンスが劣っている場合が多いが、価格やサイズは手ごろである。
ホンダが1960年代に売り出した小型オフロード・バイク、アップルの最初のパソコン、インテュイットの会計ソフトなどはそのよい例だ。これらの製品は、既成製品の基本性能をそのまま前提とはしない、新しい市場の文脈の中に、それまでになかった価値提案を持ち込んだ。そして大きな成長を遂げた。ジョセフ・シュンペーターの有名な言葉「創造的破壊」をもじって言うと、これは「破壊的創造」だ。単純で使いやすいものとして人気を博すと、破壊的イノベーションに勢いがつき、ついには、従来の独占的企業を、多くの場合は驚くべき速さで脇に追いやるのである。
持続的イノベーションの闘いは必ずといっていいほど既成の企業が制する。しかし、攻撃する側がしっかりとした破壊的イノベーション製品を持っている場合は、既成企業は必ずといっていいほど負ける。新しい成長ビジネスを生み出すためには、既成企業もスタートアップ企業も等しく破壊的イノベーション製品を投入することによって、破壊プロセスの勝者の側に立たなければならない。
[2] 破壊的ビジネスは、新しい市場を生み出すか、
既成の市場の下流を制するかだ
破壊的イノベーションには2つのタイプがある。非消費者をターゲットにすることで新しい市場を生み出すものと、既成市場の下流で競争力を発揮するものだ。
新市場を生み出す破壊の場合、攻撃する側は、競争の新しい次元か、既存市場外における新しい応用の文脈のどちらかに根づく。スキルや資金がないために従来は市場から締め出されていた消費者は、常々やりたいと思っていたことをできるようにしてくれる比較的単純な製品を歓迎する。こうした市場は一般に、最初のうちは小さく、はっきり認識されてもいない。つまり、大企業の成長ニーズを満たすものではない。そのため、既成企業は最初は何ら痛みを感じない。新しい消費が生まれるわけだから、破壊者の成長は既成企業のコアビジネスには影響しないのである。しかし、このイノベーションは改善されていくにつれ、既成企業から顧客を奪うようになる。そのとき既成企業は、この新しいゲームをプレーする能力を持っていないのである。
トランジスタは破壊的イノベーションだった。1955年に、ソニーが発売したポケット・ラジオは受信感度のきわめて低い製品だったが、その製品のおかげで、ティーンエージャーたちは親に隠れてロックンロールを聴くことができるようになった。ソニーが既成市場の消費者をターゲットにしていたら、ポケット・ラジオは失敗していただろう。喜んで買ってくれる消費者を見つけるためには、この製品は「何もないよりまし」というレベルで十分だった。