「エルパモチド」は第III相試験で失敗
一方の汎用型は、費用対効果に優れた画期的な治療法として注目されているが、これまで挫折と浮上を繰り返している。
その典型例が国内初のがんワクチン候補として期待されてきた「エルパモチド」だ。大学発のバイオベンチャーであるオンコセラピー・サイエンス社と国内の製薬各社が開発元となり、2009年から膵臓がんに対する第III相試験を実施してきた。しかし、結果的に患者の生存期間の延長は認められず、有効性を示せなかった。
残念な結果となったが、希望も示された。エルパモチドを注射した部分が炎症で硬くなったり、潰瘍を生じたりした患者に限って再解析したところ、生存期間の延長と強く関係していることがわかった。すなわち、皮膚に潰瘍を生じるほど反応があった一部の患者については、生存期間を延ばす治療薬としての可能性が残されたのである。
この結果から、汎用型のワクチンは、1つの抗原のみでは治療効果を発揮できないのではないかという疑問が生じる。
実際、オンコセラピー社はエルパモチドと新たに開発したがん特有抗原「オンコアンチゲン」など複数の成分をブレンドした「カクテルワクチン」の臨床試験を進めている。膵臓がんを対象とした「OCV-C01」は第III相試験が進行中。昨年の中間解析では大きな副作用は認められず、安全性が確認されている。あとは朗報を待つばかりだ。
海外では非小細胞肺がんや悪性黒色腫、多発性骨髄腫を対象とした英グラクソ・スミスクライン社の「MAGE-A3」や、非小細胞肺がんを対象とした独メルクセローノ社と小野薬品工業の「L-BLP25」などの開発が進んでいる。
L-BLP25はエルパモチドと同じく汎用型を目指していたが、第III相の国際共同試験で生存期間の延長を示せなかった。ただし、特定の患者集団では治療効果が認められている。最終結果は未発表だが、MAGEA3も同様の道をたどり、両社は異口同音に「個別化医療」への対応を明言している。