私は、医師に「あらゆる手を尽くしたがこれ以上はなすすべがない」と言われながらも自分で生活を変えたり代替治療法を実践したりしてがんを克服した人たちについて研究をしています。彼らのほとんど全員が、回復過程で自らの直感に従って決断を下していました。直感や第六感といったものの研究から、彼らがなぜそのような行動をとったかが見えてきます。
直感は危険を察知する
科学者たちは人間の脳は2つの運転システムを備えていることを発見しました。第1のシステムは、高速稼働し、直感的で、無意識的に働きます。第1システムを支配するのは、右脳と、脳の中でも太古から存在する「大脳辺縁系」と「間脳」です。第2システムは、ゆっくり稼働し、分析に力を発揮し、意識的に動くものです。左脳と、有史以降に発達した新しい部分「前頭葉」がこのシステムを支配しています。
直感は第1システムから生じるということが、科学的に明らかになっています。直感の訪れが唐突で、合理的なものに思えないことが多いのはそのためです。要は直感的な判断とは、慎重に状況判断をして下すものではなく、本能的に沸き上がってくるものなのです。
けれども腹で感じる直感が「信頼に足る」という根拠はあるのでしょうか。脳の第1システムが「答え」を出す速度は、実は第2システムよりずっと速かったということを報告した研究があります。「勝てば賭け金がほぼ全額手に入る」というルールのカードゲームを使った実験がありました。
実はこの実験には、被験者には知らされていない仕かけがほどこされていました。カードの山は2つ。片方の山は、勝てば大きいが負ければ大損をする山です。もう片方は、勝っても儲けは少ないが、損はほとんど出ない山です。被験者は、50回ほどカードをめくったあたりで安全な山はどちらかを勘づきはじめ、80回目には2つの山の違いを説明できるようになりました。興味深いことに、10回目の時点で、被験者の手のひらの汗腺は、危ない山のカードを触るたびに少しだけ開いていました。
また被験者は10回目あたりから、なんとなく安全なカードの山の方を好むようになっていました。つまり被験者の分析的な脳が状況を認識するずっと前に、被験者の身体は危険を感じ取り、自然と安全なほうへと向かっていたのです。