尖閣諸島問題は、「凍結」にせよ

【田原】ところで、ここにきて日本に対する中国の姿勢が少し変わってきたという印象があります。

【丹羽】少し喧嘩疲れしたんでしょうね。ぼちぼち話し合いの機運が出てきているのかもしれません。

【田原】昨年7月下旬に、元総理の福田康夫さんが訪中して習近平に会いました。新聞の報道によると、元外務省事務次官の谷内正太郎(国家安全保障局長)さんも同席したようです。そこで尖閣問題が話し合われたのではないかと思いますが、どうでしょう。

【丹羽】福田さんにその後お会いしていますけれど、そういう突っ込んだ話にはなっていないのではないでしょうか。私の理解では、日中関係には2つの障害があります。一つは領土主権の問題。もう一つは歴史認識、具体的には靖国参拝の問題です。これらの問題でお互いに何らかの譲歩がないと首脳同士が会うのは難しい。福田さんは、半年ぐらいかけて少し揉みほぐしたらどうか、というくらいの球は投げたかもしれませんが。

【田原】お互いが譲らないとなると、尖閣問題はどうしたらいいですか。

【丹羽】領土主権の問題は話し合いでは解決しません。解決するとしたら戦争以外にないですが、あの無人島のために戦争をやる気はどちらにもない。だから尖閣問題も解決は無理です。

【田原】だとしたら、どうすればいいですか?

【丹羽】私が提案したいのは「凍結」です。「棚上げ」という手あかのついた言い方もありますが、棚上げは揉め事を棚に上げるという意味ですから、領土問題の存在自体を否定している日本政府は、棚上げという言葉も使いたくない。それなら、もう氷漬けにしてお互いが一切触れない「凍結」といえばいいのではないでしょうか。そして凍らせている間に、72年からの4つの政治声明を再確認する。漁業協定、資源開発、青少年交流、経済問題。今度のAPECで会うことがあっても、余計なことは口に出さず、武器を取らない危機管理と、この4つだけ確認すればいいのではないですか。

丹羽 宇一郎
1939年愛知県生まれ。県立惟信高校卒。62年名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。89年食料第二本部長心得兼油脂部長、90年業務部長、92年取締役、94年常務、96年専務、97年副社長、98年社長、2004年会長、10年相談役。10年6月から中華人民共和国駐箚特命全権大使となり、12年12月に依願退官。12年早稲田大学特命教授、伊藤忠商事名誉理事。06年から08年まで内閣府経済財政諮問会議議員、07年内閣府地方分権改革推進委員会委員長など、政府の重職も数多く歴任。
田原総一朗
1934年滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上 敬=構成 宇佐美 雅浩=撮影)
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