田原総一朗氏

【田原】野田さんのほうから国有化の話をしたのではないのですか?

【丹羽】あのとき野田元総理は、胡錦濤に雲南省の地震のお見舞いをいっていました。そうしたら、胡錦濤が国有化の問題で異議を唱えたのです。野田さんは寝耳に水で、ビックリされたのではないですか。

問題は、会議を誰がアレンジしたのかということです。あの状況で2人が会えば国有化問題が話題に出るのは当然で、われわれ大使館はまだ首脳会談はないと考えていました。

ところが、誰がアレンジしたのか2人が会ってしまって、おまけに2日後に尖閣諸島の国有化を宣言した。どう考えても、外交上、大きなミステークでしょう。

【田原】国有化はダメだといった胡錦濤のメンツはまるつぶれです。

【丹羽】中国ほどメンツを大事にする国はありませんからね。1カ月か2カ月ならともかく、会った2日後に宣言するのはいかにも拙劣です。

【田原】それにしてもわからない。どうして野田さんは会った2日後に決定してしまったのですか。

【丹羽】私にもわかりません。野田元総理は、いずれ国民に対して、尖閣についてきちんと説明責任を果たすべきでしょう。

【田原】国有化問題では、丹羽さんも批判を受けました。「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで、「計画が実行されれば日中関係にきわめて深刻な危機をもたらす」と答えたと。

【丹羽】私は週刊誌をあまり読まないのですが、私の周りの方々が「日本で(丹羽さんの発言に対して)騒いでいます」と教えてくれました。衆議院の外交委員会でも、いろいろ批判が出ていたようですが、批判されるようなことは何もありません。

私は、国有化は大きな問題を起こす可能性がある、時期を見計らうべきだと、現場から警告を発しただけで、尖閣を中国にあげなさいといったわけではない。むしろ領土主権については1ミリたりとも譲歩できないのは当然のことであり、中国側にそういい続けてきました。ですから、騒がれていると聞いても、勝手にいろいろやっておられるなとしか思わなかったのです。

【田原】丹羽さんは習近平と何度も同席されたそうですね。彼は、どういう人物ですか。

【丹羽】彼は知日派で、日本のことをよく知っています。彼は、福建省に17年間いて、上海にもいたことがあります。福建省は長崎県と沖縄県の姉妹都市・友好県省で、日本とは地理的にも近い。(中国の国父〈国家の父〉と呼ばれている)孫文を支援した梅屋庄吉は長崎生まれで、彼はそのこともよく知っています。12年の第一次習近平体制、つまり中国共産党中央政治局委員25人も、知日派を大事にしています。李克強や李源潮、張高麗。それに習近平を支える次のリーダーとして有望視されている孫政才や胡春華も、日本に対してはそんなに悪意を持っていないと思っています。