【田原】習近平体制の弱点は経済だという人もいます。中国は事実上選挙がなくて、国民は非常に不満を持っていますが、経済成長で生活が豊かになってきたからこれまでは我慢ができていた。ところがここにきて成長が鈍化して、国民の気持ちが中国共産党からどんどん離れているのではないかと。

【丹羽】それはどうでしょう。2014年の第1~第3四半期の新規登録企業数は、2285万あって、新規の就業者数も900万人以上いる。新しい会社や雇用が増えているので、経済が危ないという実感はないのではないでしょうか。

【田原】でも、成長率は下がっている。

【丹羽】新興国が1000円クラブ、先進国が1万円クラブだとすると、かつての中国は1000円クラブにいました。平均10%の成長なら、毎年100円の成長です。経済が成長した今は1万円クラブ。成長が鈍化したといいますが、成長率5%なら年500円の成長です。経済の規模が大きくなれば率が落ちるのは当然で、額で見ると成長が止まったとは思いません。今、中国の成長率は7.4%前後ですが、それより高いとバブルで危険です。実際、昨年は鉄鋼業が2億5000万~2億6000万トンの過剰設備になったくらいですから、逆に意識的に落としたほうがいい。5~6%くらいでいいんじゃないですか。

【田原】そうですか。中国経済はまだまだいけると思っていいですね。

【丹羽】中国人が1年間に何人生まれるかご存じですか。日本は約100万人ですが、中国は1635万人。中国もいずれ人口減少するというけれど、1年に亡くなるのは約900万人なので、現状では、実質700万人くらい増えています。当分は問題ないですよ。

【田原】日本は貿易赤字ですが、中国は貿易黒字が大きいですね。

【丹羽】輸出先である欧州経済が悪くても黒字になり、貿易総額も完全にアメリカを抜きました。ただ、これからは中国の成長の舞台が輸出から国内市場に変わってきます。最近、対GDP比で第三次産業のウエートが第二次産業を初めて上回りました。数字にも、この流れははっきり出ています。

丹羽 宇一郎
1939年愛知県生まれ。県立惟信高校卒。62年名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。89年食料第二本部長心得兼油脂部長、90年業務部長、92年取締役、94年常務、96年専務、97年副社長、98年社長、2004年会長、10年相談役。10年6月から中華人民共和国駐箚特命全権大使となり、12年12月に依願退官。12年早稲田大学特命教授、伊藤忠商事名誉理事。06年から08年まで内閣府経済財政諮問会議議員、07年内閣府地方分権改革推進委員会委員長など、政府の重職も数多く歴任。
田原総一朗
1934年滋賀県生まれ。県立彦根東高校卒。早稲田大学文学部を卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。幅広いメディアで評論活動を展開。
(村上 敬=構成 宇佐美 雅浩=撮影)
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