2.どうすれば覚悟が決まり持てる力を発揮できるか
先ほどの辞世の句は、太平洋戦争のときの特攻隊員にも好まれました。なかには、遺書をまねて「身はたとひ 南の海に朽ぬとも 留置かまし大和魂」と詠んだ人もいたそうです。
ただ、松陰があの時代に生きていたら、特攻作戦に対してきっと批判的だったでしょう。というのも、松陰は命を無駄に捨てる行為を嫌っていたからです。
要は内に省みて疚(やま)しからざるにあり。
抑々(そもそも)亦人を知り幾を見ることを尊ぶ。
吾れの損失、当(まさ)に蓋棺(がいかん)の後を待ちて議すべきのみ。
「英雄自ら時措の~……」の言葉は、「英雄は時とところによって、相応しい態度を取る。大事なことはこの自らを省みて、やましくない人格を養うこと。そして相手をよく知り、機を見ることが重要だ」という意味です。
これを私なりに超訳すると、志のために身を賭すのだとしても、ただ突っ込むのではなく、タイミングを考えろということです。
別のところで松陰は、「武士の命は山よりも重く、羽根よりも軽い」といっています。武士は志を果たすために命を投げ出すものだが、そうでなければ命を粗末にしてはいけないというわけです。
これは現代にも通じる考え方でしょう。もちろん現代で命を懸けるシーンは考えられないし、実際に命を投げ出すようなことがあってはならないと思います。ただ、自分のクビをかけてプロジェクトに取り組む場面はありえます。そのときに、本当にいまがすべてを懸けるタイミングなのか、それをしっかり見極めたいところです。
逆にいうと、本気で何かに取り組みたいなら、安全圏にいるのではなく、失敗すれば何かを失うリスクを背負うべきです。むやみにリスクを取ればいいというものではありませんが、ここぞというときにリスクを背負うからこそ人は覚悟が決まり、持てる力を発揮できる。それが松陰の教えです。