課題はいつの時代もある。参謀のタネは尽きない

そういう意味では、今どきの企業参謀は難しいと思う。エスタブリッシュされて、ある程度世界化を果たした日本企業で戦略を立案するといっても、やれることは限られる。それでいて企業経営を取り巻く環境の変化は激しく、手をこまねいていると気が付いたときには危機的な状況、ということにもなりかねない。

30年来の付き合いがある会社の仕事をしていると、課題がますます難しくなっていて、戦略を考え抜いて先方に提示するまで今でも緊張する。

課題はいつの時代もある。だから参謀のタネは尽きない。

『企業参謀』では、「参謀五戒」という形で参謀の心得を説いている。

1. 参謀たるもの、「イフ」という言葉に対する本能的恐れを捨てよ
2. 参謀たるもの、完全主義を捨てよ
3. KFS(Key Factors for Success 戦略の成功の鍵)に徹底的に挑戦せよ
4. 制約条件に制約されるな
5. 記憶に頼らず分析を

それぞれの項目の詳細については『企業参謀』で確認してもらいたいが、この五戒は今なお通じると自負している。

今の時代にあえて付け加えるなら、「自分のインタレスト(利益、利害)を捨てよ」ということだろう。

前述したように、仕えた大将をヒーローにするのが参謀の仕事だと私は考えている。「この人はこんなことができたら素敵だな」と思うことを提案するのだ。私にとって損か得か、あるいはコンサルタント会社であれば会社にとって損か得か、次の仕事につながるかとか、そういうことは一切関係ない。

コンサルタントも商売だから、嫌われたり、失敗して切られるのは怖い。だから、クライアントの好みを先に聞き出して、それに合わせるような戦略を提言したり、答えがわかっている領域を「問題」として取り上げて、簡単な分析で無難な戦略を提言する輩が少なくない。しかし、そんなものが「参謀の仕事」であるはずがない。

自分のインタレスト、自社のインタレストは捨てて、「この人を輝かせるためにどうしたらいいか」だけを考える。ただし、それは自分の理想や要望であってもいけない。無理な戦略を提言して「それはいいけど、俺には無理だ」と言われたら仕方がないし、無理強いして失敗させたら元も子もない。

大将の能力、力量を正しく見極められなければ、参謀は務まらない。

大前研一
1943年生まれ。神奈川県立翠嵐高校卒。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で博士号を取得。日立製作所を経て、マッキンゼー&カンパニーでは、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任。現在、BBT大学学長。

 

(小川 剛=構成 大沢尚芳=撮影 Alamy・AP・ロイター・毎日新聞/AFLO=写真)
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