商品企画部の稲垣慶一部長は言う。
「そうした加工商品を外国人が多い高級ホテルに売りに行ったことがカゴメの最初の一歩になった。昭和8年に発売したトマトジュースも、アメリカに視察に行った社員が現地で売っているのを見て作ったものでした。海外の食文化を日本に翻訳し、定着させる手法はカゴメの伝統でしょう」
また、カゴメの大きな特徴に「契約栽培」という仕組みがある。同社は日本全国に加工用で700軒、生食用で400軒の契約農家を持ち、全国に散らばる「栽培技術グループ」の社員が栽培指導やアドバイスを行っている。これも蟹江一太郎の時代から続く手法で、同社のストレートトマトジュースは全て純国産となっている。生産量の良し悪しにかかわらず契約農家のトマトを全量買い取り、安定した収入を保証することで、トマトの安定的な入手先を確保しているのだ。
「野菜ジュースなどに輸入トマトを使用する一方で、濃縮還元ではないストレートのトマトジュースを契約栽培による純国産で作ることには重要な役割があると思っています」と栽培技術グループの石田信一郎課長は話す。
「トマトと言えばカゴメ――というブランドは、野菜ジュースや生鮮野菜を売っていく上での信頼につながっているはずです。その意味で契約農家の確保は、私たちにとってカゴメというブランドを支える社の根幹にかかわる仕事だという気持ちがあるんです」
現在、カゴメの売り上げの約半分は野菜ジュースの製造販売によって占められている。稲垣が開発したヒット商品「野菜生活」にはトマトが入っていない。だが、寺田社長を筆頭に社員の末端にまで浸透しているのは、それでも社の核には常にトマトに関する事業があるという認識なのだ。
農事業企画部長として生鮮事業を担当する藤井啓吾執行役員は「企業の農業参入が盛んに言われているが、もともと農家だったカゴメは『農家の製造業参入』の会社。その意味で植物工場への進出も自然な成り行きだった」と話した。
もちろん生鮮事業への進出は、そうした歴史的な背景だけでなく、経営上の目算があって具体化されたものだ。「そもそも日本におけるトマトの需要はまだ発展途上にあり、かなり大きな可能性を感じているんです」
藤井啓吾執行役員が現状を語る。