地球温暖化、自然災害、放射能汚染……我々の食の安全が脅かされている今日、LEDや改良された土、水を使った「人体にやさしい野菜づくり」が都会や郊外の密閉空間で行われている。その最前線を土門拳賞作家が撮った。
「植物工場」とは天候のリスクをうけない、立地も選ばない、少ないスペースでも可能な栽培方式である。光源を制御しながら作物の安定的な生育と、無農薬で食の安全と安心を保つ。加えて大量生産に適し、病害虫のリスクのない人工的な完全閉鎖系の新しい農法のことである。
地球規模による温暖化や自然災害、それにともなう世界的な食糧不足は、エネルギーや水問題同様に避けては通れない将来の課題である。そうした食糧事情に対する危機的な状況を見据えて、消費者ニーズに対応した新しい農業を目指すベンチャービジネス型の農業が各方面から注目を集めている。近未来的なSF空間をほうふつさせる、そんな「植物工場」をいくつか訪ねた。
東京・町田市の玉川大学の植物工場研究施設は、農学部の渡邊博之教授がLEDを光源とした作物栽培からヒントを得て開発した「LED水冷技術」が話題を呼んだ。水耕栽培とLED技術を組み合わせ大量栽培と安定供給を目指す栽培方法は10年間使用してもLEDの出力を十分保つ水冷システム方式である。
LEDを用いて植物に有効な光だけを供給し効率的な栽培を行うこの実用的システムは、将来食糧供給への一助を担うかもしれない。
大阪の丸紅支社の地下の土耕式植物工場では蛍光灯やLEDの明かりを利用した植物や野菜の栽培が進んでいる。丸紅の植物工場の特徴は保水と保肥性を併せもった“ヴェルデナイト”という理想の土を使用したことだった。それは一般的な培土と比較して重さ10分の1、保水力10倍、保肥力50倍という最適な土壌である。これにより従来の水耕式では難しかった根菜類の収穫も可能になった。丸紅は現在、完全人工型植物工場のニュービジネスを独自のネットワークでもって展開している。
東京・大手町のパソナグループ本部では新しい農業であるアーバンファームを館内に設けている。水耕栽培によるトマトやキュウリ、植物工場ではハイブリッド電極蛍光管を使って多くの葉物野菜を栽培している。また、独立就農に挑む人を応援するベンチャー支援制度や農業人材の育成にも力をいれてきた。
静岡県の焼津市にある村上農園の大井川生産センターはスプラウト(発芽野菜)のパイオニアでもあり、「ブロッコリースーパースプラウト」という栄養分の高いスプラウトを生育し、全国に大量に出荷している。このスプラウトは米国の先端予防医学の権威である医学博士が、がん予防の研究中に開発したものだ。
温暖化の影響による気象変動、それによる作物生産の不安定化への懸念。新しい農法である完全閉鎖系の植物工場は初期投資や高度な技術力を必要とするが、それを乗り越えて将来の食糧事情への危機感を共有し、新しいビジネスモデルになりうるか、問われている。