国鉄の分割民営化までの最後の2年間には、新潟鉄道管理局の人事課長として職員の合理化と雇用斡旋を担当した。1万人余の局の職員を4分の3ほどに減らすという仕事だ。合理化の目標を達成するため部下にも声をかけることになった。仲間が不本意にも職場を去る姿を見送るのは極めてつらい仕事だった。
その体験が私の原点となっている。企業の業績が落ち込むと人の人生が不幸になる。技術や能力がいくらあっても、気持ちが荒んでいてはそれを活かせない。裏を返せば、社員の気持ちが前向きであれば自ずと安全も担保される。その意味で国鉄時代の苦しかった経験を若い世代にどう伝えるかは一つの課題だ。
――リニアの着工、新幹線の海外展開など新たな挑戦が続く。
【柘植】目標を持つ会社と持たない会社は決定的に違う。特にリニアは、夢がいよいよ形となる事業でもあり、世の中の大きな期待の高まりを感じる。こうした目標を持つことは、社の内外に対する大きな求心力になる。優秀な人材を集められるうえに、まさに社員一人ひとりの「前向きな気持ち」を支える事業だととらえている。
――今後の抱負は。
【柘植】「1人の10歩より10人の1歩」と私はよく言っている。鉄道はチームワークであり、優秀な人間が1人でいくら頑張っても動かない。その10人が2歩目、3歩目への余力を残しながら、足を前に踏み出し続けることが大切だ。日常の安全運行と同様に、13年間という短い時間で大工事を進めるリニアについても、この姿勢が求められていくものだ。
1953年、岐阜県生まれ。77年東京大学経済学部卒業、日本国有鉄道入社。85年新潟鉄道管理局総務部人事課長、87年東海旅客鉄道(JR東海)入社。2002年取締役人事部長、06年常務取締役秘書部長、08年代表取締役副社長。14年4月より代表取締役社長。
出身高校:岐阜県立岐阜高校
長く在籍した部門:総務・人事部門
座右の書(または最近読んだ本):『李登輝より日本へ贈る言葉』
座右の銘:「1人の10歩より10人の1歩」
趣味:テニス、ゴルフ