日本経済は消費税増税の逆風を乗り切り、株価は再び上昇局面に入ったようだ。2020年の東京オリンピックを控え、各社、攻めの経営が目立つ。少子高齢社会のなかで、企業はどこへ向かうのか。新たに経営トップの座についた人物を解剖し、未来への展望を開く。
「夢の事業」で社内をまとめる人事のプロ
景気回復を受けて、鉄道各社の業績がいい。なかでもJR東海は昨年度、売上高、営業利益ともに過去最高を記録した。東海道新幹線が運行開始から50年を迎え、今秋にはリニア中央新幹線の着工を見込む。節目の年を迎え、柘植康英社長は「好調なときこそ組織を引き締めないといけない」と話す。
――社長の役割をどう考えるか。
【柘植】いま、わが社は外から見ても内から見ても順調だ。しかし事故が一つでも起きれば信用は一瞬で崩れる。鉄道会社にとって安全は絶対条件だ。組織が本当に順調なときこそ、緊張感を持って、規律正しくきちんとした仕事をする必要がある。
「安全」と「技術」と「人」。その3つが揃って初めて安全・安定輸送が可能になる。この鉄道事業の本質・ベースを疎かにせず磨き続けるのが使命だと考えている。
――そのために必要なことは。
【柘植】ひとことで言うと、社員一人ひとりが「この会社で働いていてよかった」「この会社で働きたい」と思えるかどうか。
総務・人事の部署を長く渡り歩いてきた私には、労使関係について特別な思い入れがある。国鉄時代は労働組合による違法ストライキが日常茶飯事だった。団体交渉の現場では、管理者が何か言うと、その何倍も野次が返ってくる。管理者の力が弱く、物事も組合の了解がないと進まなかった。これでは国鉄はうまくいかないと実感した。