――再逆転の戦略として、ライバルとは別路線を決断した。

【牛田】ASMLはEUV(極端紫外線)露光という、次世代技術の開発に注力した。ニコンも研究したが、EUV露光は開発費が膨大で、量産化においては経済合理性が成り立たない可能性が強い。マッハ超えは達成しても商業的には失敗した超音速旅客機コンコルドの轍を踏む恐れがあると、私は考えた。

われわれは、ArF(フッ化アルゴン)液浸露光という、今ある技術に狙いを定め、主力部隊を一点に集中して戦う戦略を選んだ。半導体の微細化で、今視野に入る一番先端までは、ArF液浸で達成できる自信がある。判断にブレはなかった。

――映像と精機の両軸に加え、医療分野への進出も始まる。

【牛田】狙うのは、十分に解決できていない医療ニーズだ。例えば、医療のビッグデータ処理は進んでいても、人体からデータを採るデバイス開発は遅れている。そこで、半導体の技術を使い、検査用チップの構造を微細化して、従来の100~1000倍の情報量を一度に得られるようにする。患者の負担は減り、医療費削減の社会的要請にも応える。光と精密の技術を持つニコンが担うべき領域だ。M&Aも積極的に行う。第3の軸に育てていく決意だ。

ニコン代表取締役社長 牛田一雄
1953年、東京都生まれ。75年東京大学工学部応用物理学科卒業、日本光学工業(現ニコン)に入社し、03年執行役員精機カンパニー開発本部長、05年常務取締役兼上席執行役員、07年取締役兼専務執行役員、13年取締役兼副社長執行役員を経て、14年6月から現職。

出身高校:桐朋高校
長く在籍した部門
:精機カンパニー
座右の書(または最近読んだ本)
:『三国志』
座右の銘
:心に私なき時は疑うことなし
趣味
:カメラ、オーディオ機材集め

(勝見 明=構成 門間新弥=撮影)
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