自然環境ヲ尊崇シ社会貢献活動ヲ為スヘシ
トヨタがめざす社会との「共生」のルーツは、トヨタグループの始祖、豊田佐吉翁の遺志を継ぐかたちで1935年に制定された豊田綱領(現在のトヨタ社是)の一節、「神仏ヲ尊崇シ報恩感謝ノ生活ヲ為スヘシ」に遡る。神仏を自然環境、生活を社会貢献活動と置き換えればトヨタの創業理念の一端が窺える。果たしてそれは今日も健在か。
筆者は去る10月2日、3日の伊勢神宮(内宮)の式年遷宮を見学する機会を得たが、「大自然の恵みに感謝しつつ、常若(とこわか)の伝統に奉仕・継承していく」日本人の心性が、神代の昔から連綿と受け継がれているさまに触れる思いがしたものだ。ビジネスのありようもおそらく、その深みにあるのだろう。
環境教育を通じたトヨタの「共生」への思いは自然学校の運営形態にどう生かされていったのだろうか。
まずロケーション的にはいわゆる僻地にあることから「日帰りは無理」。とすれば、しっかりとした宿泊型の環境教育プログラムにする必要が出てくる。もっとも当初の段階では教育施設というよりもエコガーデンみたいな、オートキャンプ場もありのアミューズメント性の強いものにしては、との発想もあったようである。自然学校というとお堅い研修所やセミナーハウス的なつくりになってしまいがちだからである。試行錯誤のうえまとまったのは、癒やしの場もセットしたこれまでにないトヨタならではの色合いを、との観点から「泊まって快適、学んで素晴らしい」という運営コンセプト。これを「日本一美しい村に日本一の自然学校」とのキャッチフレーズに託した。
具体例はさまざま。宿泊客に出される料理は決まってフランス料理。今では同校の売り物のひとつだ。それもそのはずで、館内のフレンチレストラン「ラ・リヴィエール・ブランシュ」の田中理永(たなか・ただなが)シェフは、世界的に有名なフランス料理人である三國清三氏のお弟子さん。三國グループが持つ都内レストランの料理長を務めた人物である。田中氏は開校前の一般公募の際に、全国から応募してきた100人以上のシェフのひとりだった。華麗なキャリアを持ちながら、三國グループからの独立後、大自然の中で働けるところをちょうど探していたところだったという。募集したほうも応募したほうも、自然環境がモチーフだったというわけだ。
とはいえ、自然学校はレストラン開設にあたってフランス料理と決めていたわけではない。「採用した田中シェフがたまさかフレンチシェフだったから、フランス料理を出すことになっただけ」というから面白い。ただし、公募した際の条件は「洋食のみ」だった。宿泊客の年齢層は幅広く、中高年のお客のなかには「和食も選択できるように」との要望も強い。それでも、フレンチの洋食のみを今でもかたくなに守っている。地元との「共生」をめざしていたからである。