いきなり世界に出る地方企業

第二に、日本の地方で元気な中小企業が台頭してきたことです。

一般メディアでは、「東京の一極集中が進展して地方は疲弊する一方」という論調が目立ちます。もちろんそういう側面はありますが、他方でユニークな経営による面白い中小企業が地方に出てきたのも確かです。なかでも特徴的なのは、こういった企業は東京など国内大都市への進出を目指すのではなく、いきなり海外展開も始めてしまうことです。「地方企業がいきなりグローバルビジネス」を始めてしまうのです。

たとえば、日本で最初に国産ジーンズが誕生した岡山県倉敷市の児島地区は「デニムの聖地」と呼ばれ、30社以上の中小ジーンズメーカーがひしめいています。その中で有名なのが、「桃太郎ジーンズ」という高級ジーンズを製造する藍布屋(らんぷや)というメーカーで、その製品は海外でも売れ行きを伸ばしています。

児島地区で他に注目を浴びている一社は、生地加工を手掛ける従業員50名ほどの美東(びとう)です。ごわごわのジーンズ生地を軽石と一緒に洗うことで、はきやすくする加工技術を考案したのは児島の職人たちでした。美東はそれをさらに発展させ、はき込んだ感のある独特のシワを出したり、高圧状態でジーンズに砂を吹きかけ色を削り落とす加工技術を考案しました。この技術は世界中から注目され、同社は海外の有名ブランドを含む400ブランドの加工と仕上げを手掛けています。

海外の経営学では「インターナショナル・アントレプレナーシップ(国際起業)」という研究領域が注目されています。昨今、欧米では若いベンチャー企業であるにもかかわらず急速に国際展開する企業が増えていることに注目し、その戦略を研究することが盛んになっているのです。たとえばインターネットの普及により、ネット関係の企業は容易に国際展開をするようになっています。

他方、日本ではこのような新しい技術を駆使した企業ではなく、「もともと長い歴史を持っていた地方の中小企業」が、新しい経営者を迎え入れたことなどを契機に国際化するようになっているのです。このような企業は、ネットベンチャーのような派手さはありませんが、伝統技術などの経営資源を持っています。それらを戦略的に組み合わせて、まるで新しく起業したかのように、急速な海外展開を進めています。まさに「日本版の国際起業」が、地方で進み始めているのです。

このように、日本では経営学の「国際起業」の知見を、若い企業だけではなく、地方の中小企業にあてはめることが有用だ、と私は考えています。