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人口10万人当たりの医師数

消防庁によると、東京都における06年の妊婦の搬送拒否は528件。一方、秋田、福井、熊本、山形の四県は0件だった。四県のうち山形県は「周産期母子医療センター」の指定病院がない。山形大学医学部の嘉山孝正学部長は「あえてつくらせなかった」と説明する。

「センター化はきわめて行政的な発想。医師にとって魅力がなければ人材は集まりませんし、搬送が1カ所に集中すればネットワークが壊れる。ハードよりもソフトの運用が重要なんです」

医療はよく職人の世界にたとえられる。同じ外科でも心臓や脳、救急など「得意分野」によって能力は違う。そして何を得意としているかは、「素人」である役人にはわかりづらい。

02年に山形大学は県内の主要病院と「蔵王協議会」を発足させた。たとえば県内に産科の医師が「どこに」「どれだけ」いるかを調べ、搬送拒否のない体制づくりを整えた。医療者だからできる人材調整の仕組みだ。

こうした機能は従来、大学の医局が担ってきた。医局が新卒医師の人事権を握り、派遣先を調整していた。だが04年から新臨床研修制度が始まると、医師たちは医局に残らず、学歴と職歴を磨くため「ブランド病院」に集中するようになった。この結果、地方大学病院の多くは研修医を確保できなくなり、医局からの派遣に依存していた地域の中核病院は医師不足に陥った。

山形大学は「ブランド化」に挑み、医師確保を成功させた。医学部の人気は国家試験合格率に大きく左右される。このため筆記試験を重視する入試改革や進級基準を厳しくする授業改革を実施。合格率は10年ほど前までは国立42大学のうち30~40位前後だったが、年々順位を上げ、07年の合格率は全国1位となった。高度医療の取り組みも評価され、今年、山形大学で研修する医師は27人と東北大学の18人をしのぐ。嘉山医学部長はいう。

「私が取り組んだのは医局の『機能』の強化でした。小泉改革などを経て、医師の偏在を調整できなくなっていた。医師不足の解消には時間がかかります。医療者はいま何ができるかを考えるしかない」

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