「ガダルカナルの日本軍」をパンクさせた
「ER」というアイデア
「妻が死をもって浮き彫りにした問題を、医者、病院、都、国が力を合わせ改善してもらいたい。妻の死を無駄にしてほしくない」
今年10月、脳出血を起こした東京都内の妊婦が8病院に搬送を拒否され、出産後に死亡した。夫は記者会見で「だれも責める気はなく、裁判を起こすつもりもない。赤ちゃんを安心して産める社会にしてほしい」と話した。
当初、医師不足を理由に搬送を断り、最終的に女性の収容先となった都立墨東病院は「総合周産期母子医療センター」の看板を掲げる大病院だった。看板に偽りがあったのはなぜだろうか。
東京23区には700床以上の大病院が21ある。その運営母体は大学が12(私立10、国立2)、都立が4、国立2、その他3。この12の大学病院のうち、8つは都心部の新宿・文京・港区にあり、残る4つは北部と南部に2つずつ。問題の起きた東部、西部地区には「分院」はあるものの、大学病院本院は存在しない。東京大学医科学研究所の上昌広特任准教授は話す。
「大学病院本院の不在は地域医療のうえで大きなマイナスです。養成機関である大学病院には多くの医師が集まるため、どの地域でも医療ネットワークの中核。それがない東部と西部はどうしても医師不足に悩むことになります」
12の大学病院のうち、都心部にある7病院は大正時代までに創設されている。残る5つのうち最も創立が新しいのは1971年の帝京大学医学部で、それ以降の開院はない。
専門病院でも需要の多い地域のほうが儲かる。たとえば癌研有明病院は3年前に大塚から有明に移転したところ、患者が増え、経営状況が改善した。本来、大学病院本院のない場所には大学の進出があるはずが、医療は自動調整が働かない。ベッド数の総枠規制という政治的失策の影響が大きい。