信頼するに足りない上司の「発言」にはいくつかの類型がある。1つは「上からの指示だからやれ」というタイプ。こんな責任感が微塵も感じられない発言をするようでは、部下がやる気をだすことはありえない。2番目は「競合他社がやっているから」という人。思考放棄の最たるもので、経済が右肩上がりの時代ならともかく、その通りに進めても大抵のケースで失敗する。3番目は「会社が危機だから、今やらないでどうする」と口癖のように言う人だ。こういうタイプはやたら危機を振り回すだけで、本当の危機がおとずれても本人は危機意識を持たない場合が多い。4番目は、部下が何か書類を持ってきても「後で見ておくから」というノーレスポンスタイプだ。部下としてはすぐに返事が欲しくて待っているのに何も応答しない。部下が最もストレスがたまるのは、このタイプだろう。これらのような発言をする上司に「何でも話せ」と言われたら、慎重になったほうがいい。

逆に「信頼できる上司」にもいくつかポイントがある。1つは自分の成功談より失敗談を語れる人だ。上司の成功した方法が現況でも通用するとは限らないし、第一そんな自慢話は聞いていてつまらない。2つ目は、部下の話をしっかり聞いて責任を負ってくれる人。部下が自分の失敗を正直に報告することは勇気のいることだ。そういうときこそ親身になって相談に乗り、「気にするな。最後は俺が責任をとるから」と腹をくくれる上司だ。このようなタイプの上司であればすべてを打ち明けてもいいだろう。

最後に、会社の上司中の上司である経営者としての立場から話をしたい。上司と部下のコミュニケーションを円滑にする方法とは、組織の目標の共有化の徹底に尽きる。目標が共有されていれば、部下は相談をしにくるときには、すでに問題解決の手段を固めているものだ。その解決策がある程度のレベル以上なら細かいことを言わず、上司はその場でGOサインを出す。この繰り返しが組織にスピード感を与えるのだ。

リーダーの能力以上に組織の能力が上がることは決してない。部下をつまらないことで悩ませないためにも、上司の側でやるべきことは多いはずだ。

アサヒグループHD社長 
泉谷直木 

1948年、京都府生まれ。京都産業大学法学部卒業。広報部長、経営企画部長、東京支社長などを歴任。2004年、常務。09年、専務。10年3月より現職。
(構成=溝上憲文 撮影=原 貴彦)
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