ドイツが導入した「労働時間貯蓄制度」

現在、日本でもインターバル規制を取り入れている業界があります。しかし私の経験から言えば、忙しさが続く時期はあるもので、そのときに「11時間後に来なさい」と言われたら仕事になりません。むしろ、長時間労働が続いた後にまとまった休暇を取れる制度があったほうが、本人のためにも企業のためにもよいと思います。

すでにヨーロッパでは、超過した労働時間には割増賃金を払うという考えから休日に代替する考え方が強まっています。たとえばドイツでは割増賃金による規制を1990年代にやめて「労働時間貯蓄制度」を導入しました。労働者が労働時間口座に所定外労働時間を貯蓄し、休暇などに使える仕組みで、オランダやベルギー、北欧諸国などでも導入されています。

残業した分は割増賃金でなく休めるようにすれば、残業代を稼ぐために労働者が長時間労働をするインセンティブがなくなり、あまり残業代を払いたくないという企業側の本音にも合致します。

日本では年次有給休暇の取得率が低いという問題がありますが、ヨーロッパの労働者が年休を取れるのは企業にきちんと取らせる義務を課しているからです。また、日本で年休を取りにくいのは、職務の不明確さと企業内コーディネーションによる負担があるという側面もあります。要は「休むと他の人に迷惑がかかるから」年休を取れない。解決するには、働き方の根本を変えざるをえません。

日本の組織の強みは、社員同士の密接なコーディネーションにありました。つまり組織の上下左右でコミュニケーションを取り、すり合わせていくことで強みを発揮してきましたが、それによって労働時間が増えてしまいました。

「すり合わせ型」の働き方が行き詰まったいま、今後は職務を明確化するとともに、綿密なコーディネーションを必要としないよう業務をうまく切り分けて組み合わせる「モジュール型」の働き方への転換が必要になると思います。

同時に、長時間労働を支えてきた企業文化や社会規範を変えていくことも重要になるでしょう。これは女性や高齢者の職場参加を促すためにも必要です。

(構成=宮内 健 撮影=宇佐美雅浩 写真=Getty Images)
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