「フロンティア」はロシアとウクライナ

しかし、岡田のアメリカの独禁法に対する不安は、杞憂で終わった。残るは、中国の独禁法を司る中国商務省の対応だけだ。岡田は、こういう。

「中国は、WTO(世界貿易機関)に加入している。例えば何%以上の売り上げは認めないとか、無茶な要求はしてこないだろうと思っていました。けれど、中国の対応に対する不安は拭えませんでした」

さらに、昨年度、丸紅が「中国儲備糧管理総公司」(シノグレイン)と提携した件も、不安要因の1つだった。

現在、中国が輸入する大豆は約6000万トンで、この10年間で5倍に急増している。その最大の輸入業者は1000万トンを扱う丸紅であり、今回の買収で、シノグレインとガビロンが扱う大豆も加わる。14億人の人民の胃袋を有する中国にとって、食糧問題は、安全保障の大きな要の1つである。自分たちの胃袋を日本企業に握られていいのか、というきわめて政治的な議論が、中国内部で起こっても不思議ではなかった。

ガビロン買収に関する中国側の審査が始まった時期は、運の悪いことに尖閣諸島の領有権をめぐって日中両国が最も神経質になっていた時期とも重なった。独禁法を扱う中国商務省は、独立した行政機関とはいえ、中国共産党の影響力、政治的な思惑を排除しては成立しない。

ガビロン買収に関して中国商務省が下した結論はどうだったか。それは、「ガビロン買収を許可する代わりに、中国側が提示した条件は、極めて妥当なもの」で、簡単にいえば、「競争関係は維持すること」だった。