さらに東洋水産は、「マルちゃん鍋用ラーメン」にはスープを付けなかった。鍋料理のタレを使えばよいので、スープはなくてもよいのである。また家庭で鍋を囲むことが前提なので、1玉ではなく2玉入りのパッケージとした。こうした使用シーンを踏まえた商品設計が、「マルちゃん鍋用ラーメン」を、利益の出やすい商品にしている。「マルちゃん鍋用ラーメン」は、価格を保ちながら、厳しい競争環境のなかで販売を伸ばしていった(図3)。
とはいえ、発売当初は、「マルちゃん鍋用ラーメン」のマーケティング担当者は、悩ましい問題に直面していた。「マルちゃん鍋用ラーメン」の販売が伸びる以前には、家庭で鍋料理に中華麺はほとんど使われていなかった。一方で、昼食などに家庭で生ラーメンを調理するシーンは確実に存在していた。実現できるかどうかわからない新たな使用シーンと、すでに確実に存在する使用シーンのどちらに対応するか。当時の担当者の悩みがわかるだろう。
しかし、この確実に存在する市場という「隣の赤い柿」の先には、何が待ち構えているのか。「マルちゃん鍋用ラーメン」にスープを付けて、確実に存在する市場を狙おうとすることは、コモディティ化を自ら招き寄せることに等しい。今の日本の厳しい競争環境のなかで脱コモディティ化に挑むには、この誘惑を乗り越える必要がある。